放射能防護服や通信機器が足りない

日経ビジネスONLINEに掲載された記事が削除されているのでここで掲載しておきます。

放射能防護服や通信機器が足りない
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110415/219468/?rt=nocnt

米軍や仏アレバから提供を受ける
清谷 信一 【プロフィール】
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 「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる」。これは自衛官が任官時に読み上げる宣誓文の一部だ。

 東日本大震災において、多くの自衛官がその文言通りの姿勢で災害派遣の現場で任務に就いている。今回の自衛隊の働きを見て、多くの国民は「やはり自衛隊は頼りになる」と再認識したはずだ。だが彼らの活動を支える装備の充実に関しては、実はお寒い限りだ。

 軍隊はふつう、ヘルメットや戦闘服、コンバット・ブーツと同様、装備の一部としてセーターを支給する。だが自衛隊はセーターを支給していない。隊員たちは、駐屯地や基地内の売店で売っている自衛隊指定のセーターを買う必要がある。筆者の知る限りセーターを支給していない軍隊はない(北朝鮮は知らないが)。昔、退官したある陸将にこの件を尋ねたら「予算に余裕があれば支給したい」とのことだった。

 この話を海外の軍人や軍関係者にすると例外なく驚く。途上国でも「セーターを支給するのが当たり前」というのが常識以前の認識だからだ(北朝鮮に関しては知らないが)。戦時に前線でセーターが必要になった場合、駐屯地に戻って売店で買えというのだろうか。まだ寒い東北の災害派遣の現場で、セーターは必要ないのだろうか。

 自衛隊は、戦車や戦闘機などパッと見、分かりやすい正面装備の調達には湯水のように金をかけている。だが、一見地味だが必要不可欠な装備には金をかけていない。正面装備や武器だけで戦争はできない。前の戦争で散々高い授業料を払ったはずだ。

 無線機、偵察用オートバイ、トラック、防弾チョッキ、NBC(Nuclear, Bio, Chemical)スーツなど多くの装備が、実は定数を満たしていない。また既存の装備の多くが耐用年数を過ぎており、実用上問題のあるポンコツだ。陸上自衛隊の内部資料によると無線機、偵察用オートバイなど、まともに稼働するのは3割程度にすぎない。


NBCスーツの備蓄がまったく足りない

 まずNBCスーツについて見よう。今回、1カ所の原発事故に対処するために、発生直後、米軍から1万着のNBCスーツの供給を受けている。同様にフランス原子力大手アレバ社と仏電力公社(EDF)からも放射線防護服1万着とその他の装備の提供を受けている。これは自衛隊のNBCスーツの備蓄が極めて少ない証左である。


自衛隊の科学防護服
画像のクリックで拡大表示 ちなみに軍用のNBCスーツやガスマスクは、放射線から人体を防御できるわけではない。しかし、フォールアウトが身体に付着するのを防止することができる。スーツやマスクのフィルターには活性炭などを封入しており、呼吸器を通って体内に吸入されるのを防ぐこともできる。

 例えば10万人のために、1日2着、3日分を備蓄するとなると60万着必要だ(基本的にNBCスーツは使い捨てだ)。大規模なNBCR(核・生物・化学・放射能)災害が数日で収束するとは思えない。仮に原発がより深刻な状態になり、自衛隊が何十万人もの住民を避難させる事態になったとしよう。仮に1万人を動員するとしても、先の60万着の備蓄は一カ月で底をつく。

 しかも自衛隊は、ヘリや戦闘機、偵察機など、航空機の乗組員用のNBCスーツを装備していない。他国は当然、装備しているものだ。また、航空部隊は通常NBC訓練を特に行っておらず、必要な時は地上用のスーツを使うことになっている。だが今回その使い勝手の悪さが現場で問題となった。

 NBCスーツの備蓄には膨大な費用がかかる。このためどこの国もNBCスーツを備蓄するための予算確保に頭を痛めている。だが我が国は唯一の被曝国であり、放射能汚染の怖さが身にしみているはずだ。しかも安全保障上の脅威として、北朝鮮が弾道ミサイルに搭載するかもしれない核弾頭や、ダーティボム――核物質などを通常の爆発によってまき散らす――攻撃、あるいは原発に対する破壊工作などが想定されている。またオウム真理教事件では地下鉄サリン事件や炭疽菌テロなどで化学・生物テロも体験した。我が国はすべての種類のNBC攻撃を受けた唯一の国家である。もっとNBCR戦に対する備えをすべきだろう。


隊員の私用携帯電話を使って連絡を取りあう

 陸自の普通科(歩兵)は、演習場の広さの制約から約200名の中隊規模で演習を行うことが多い。この時、無線機の数が足りないので、他の中隊から借りて何とかその場を繕っている。しかもその無線が通じないことが多いので隊員たちは私物の携帯電話で連絡を取り合っている。携帯電話がないと演習にならないのだ。
普通、軍隊は私物の携帯電話を使用することを禁止している。自衛隊でもタテマエ上は禁止である。だが、背に腹は代えられないのだ。このため、自衛官の契約を取るためauやソフトバンクが競って演習地に基地局を建ててきた。

 今回の大震災の現場では同じ連隊に属す中隊が一斉に出動しているので、他の中隊から無線機を借りることもできない。一方、携帯電話の無線局は機能を失っているので隊員の私物の携帯電話も役に立たない。このためNTTから優先割り当ての携帯電話を借りたり、衛星電話を投入したりして、何とかしのいでいる状態だ。それでも現地では、通信手段の不足で、部隊を細かく分割して運用することができない。

 だが、現場では「今回は定数が足りなくて良かった」、また「旧式のアナログ無線で良かった」という声もある。自衛隊の無線機は外国の無線機に比べて周波数帯が極めて狭い。総務省が自衛隊に極めて狭い周波数帯しか割り当てていないからだ。このため、定数の無線機が投入されていたら、混線がひどく、正常な通信が不可能だったと予想される。

 仮に戦争が起こり、一定地域に自衛隊部隊が集結すると、無線による通信が不可能にある可能性が高い。現在使用している無線機は旧式なアナログなので、雑音混じりでも相手と交信することができる。だが、最新式のデジタル無線機の暗号通信だと交信は不可能だ。つまりこれが戦争だったら、自衛隊はまともな通信手段なしで敵と戦わなければならなかった。これで戦争に勝てるわけがない。今回は相手が自然災害だったのが不幸中の幸いだった。

 早急に、より広い周波数帯を自衛隊に割り当てる必要がある。また優先順位の低い戦車などを買う予算があるならば、通信機の充実を図るべきだ。


米やイスラエルでは兵士にスマートフォンを支給

 軍隊の情報化・ネットワーク化は待ったなしだ。従来の音声中心のアナログ無線機に代えて、データや画像も送受信することができるデジタル無線機、データ情報や画像がやり取りできる情報リンク・システム、衛星、コンピューター、デジタルマップ上に敵味方の位置情報を表示できる戦場マネジメント・システムなどが必要だ。さらに、密に連絡を取るため、今まで小隊の下の分隊ごとに1機だった通信機を、各歩兵に支給する必要がある。

 既にイスラエル軍や米軍では、兵士に軍用のスマートフォンを支給し実験を行っている。将兵はメールや画像、作戦書などのやり取りに利用する。装備のマニュアルや作戦地図などを即座に参照することもできる。

 だがネットワーク化にかかるコストは従来の通信システムに比べて、少なくとも1けた多い。自衛隊の今の予算では、ネットワーク化を推進し、その維持・整備コストを捻出できるとは思えない。

 無線機が使えないなら、偵察用のオートバイを伝令として使う、という手もないわけではない。だが偵察用オートバイも、先に述べたように、まともに稼働するものがかなり減っている。


偵察用バイクの実数、稼働率も極めて低い
画像のクリックで拡大表示 公平のために記しておくと、災害派遣で使用する汎用ヘリや給水設備などは、常に「実戦」が起こることを意識しているため、比較的高い稼働率を維持している。自衛隊は2010年に、ハイチやパキスタンの人道援助に出動しているが、これらの装備が重要な役割を果たした。


遺体袋の不足は衛生状態の悪化を招く

 災害派遣で足りないものはほかにもある。遺体袋もその一つだ。軍隊では戦死者の遺体を保存し、後送するため遺体袋を常に備蓄している。遺体を収容し、できるだけ良い状態で持ち帰ることは、遺族にとって極めて重要なことだ。もちろん、部隊の士気を維持するためにも必要である。また戦場(今回は被災の現場)における衛生維持の観点からも必要不可欠な装備だ。

 今回の震災の現場では遺体袋が圧倒的に足りなかった。これは防衛省幹部も認めている。米軍などでは遺体を収容する冷蔵車を保有しているが、自衛隊にはそのような設備がない。今回の大震災が夏場に起こっていたら、遺体が早い段階で腐乱し、その収容は困難を極めたことだろう。これは自衛隊だけの問題ではない。各地方自治体も大規模災害に備えて一定数の遺体袋を備蓄しておくべきだ。

 このような装備の不足は、自衛隊が数千人単位の死者が発生する実戦をまったく想定していないことを意味している。自衛隊の装備の取得・維持体制は有事を想定しているとは言い難い。

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