財務省歳出改革部会(令和2年10月26日開催)資料を読む。その3

財務省の歳出改革部会、防衛関連の資料を検証します。これは結構示唆に富む指摘がなされているのですが、記者クラブメディアの皆さんも含めて、何故かあまり注目されておりません。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings_sk/material/zaiseier20201026/03.pdf

今回は3つ目の調達改革です。

装備品の調達方法とコスト管理について(P18)
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○ 装備品の調達においては、様々な調達方法や契約制度を通じたコスト管理が行われている。
○ 一部で効果が上がりつつあるものの、依然、実効的なコスト管理がなされているとは言い難い。
○ 単に制度を増やす・変えるだけでは調達改革は達成されないのではないか(次ページ以降参照)。

 いつも申し上げておりますが、コスト意識が極めて希薄です。資料が指摘している通り、「単に制度を増やす・変えるだけでは調達改革は達成されない」まさにお説の通りで、米国を真似した制度を作っても骨抜きにされて機能していません。装備庁も機能しているとはいいがたい、むしろ調達に関する能力が低下しているように見受けられます。

プロジェクト管理の課題①:ライフサイクルコスト(LCC)の増加(P19)

○ H27の防衛装備庁発足後、効果的かつ効率的な運用及び維持を可能とする最適な装備品の取得を実現するため、基準を満たす装備品について、 PM(プロジェクトマネージャー)を設置し、構想から廃棄に至るライフサイクルコスト(LCC)を一貫して管理する、プロジェクト管理を行うこととされている。
○ 現在のところ、LCCが継続して上昇している装備品が多く、LCCの抑制効果が発揮されているとは言い難い。

そして装備庁発足以前は防衛省ホームページで毎年公開されていた「ライフサイクル報告書」も公開されなくなりました。情報を公開しなければあれこれ突かれないだろうという姑息な思いがあるのでしょう。ですがそれでは我が国を戦争に引き込み、ボロ負けした「軍事の専門家集団」帝国陸海軍と同じ発想です。
情報公開は民主主義と文民統制の根幹です。防衛省のセンスは同盟国や他の民主国家よりも中国、北朝鮮に遥かに近いといえます。

<対象装備品のLCCの変化>
●当初ベースラインから LCCが増加したもの
03式中距離地対空誘導弾(改善型)、水陸両用車(AAV7)、新多用途ヘリコプター(陸自UH-X(陸自UH2))、新哨戒ヘリコプター(SH-60K能力向上型)、固定翼哨戒機(P1)、輸送機(C-2)、戦闘機(F35A)、空中給油・輸送機(KC46A)、早期警戒機(E-2D)

●当初ベースラインからLCCが増加したもの
SM-3ブロックⅡA、滞空型無人機(グローバルホーク)、新艦艇、ティルト・ローター機(V-22)、29年度型潜水艦、16式機動戦闘車
●当初ベースラインがまだ設定されていないもの
次期戦闘機、イージス・アショア、島嶼防衛用高速滑空弾

<LCCが増加し続けている装備品の具体例>
●輸送機(C-2)
LCC設定時の見積り           17,296億円(H21年度)
プロジェクト管理対象選定時の見積り    19,326億円(H27年度)
令和2年度の年度見積り          20,055億円

LCCコストは約2千億円も高騰しています。

●固定翼哨戒機(P-1)
LCC設定時の見積り           22,850億円(H20年度)
プロジェクト管理対象選定時の見積り   32,182億円(H27年度)
令和2年度の年度見積り          36,614億円

LCCコストは約1.4兆円も高騰しています。

つまり両機種併せて2.2兆円も見込み違いで余分に経費が掛かることになります。
両機は同時開発により、コンポーネントなどを共用することよって、開発及び調達、運用コストを大きき低減するという売り込みで開発されましたが、完全に失敗です。
共通化されるはずのコンポーネントの共用化は無理があり、個々に開発されることになってコストを押上ました。更に両機、及び飛行艇US-2、ボーイング機の下請けが重なって、人的にもかなり手薄になりました。そのためかP-1、C-2とも不具合が続出してこれもコストを押し上げる結果となりました。

すでにご案内のようにC-2の飛行時間当たりのコストは他国の輸送機の何倍も高い。P-1も似たようなものでしょう。

>財務省によれば空自のC-2輸送機の維持費はF-35Aより高い。であればCPFHも当然高い。実は財務省の資料ではC-2のCPFHが公開されている。これによればC-2のCPFHは約 274万円、米空軍のC-130Jが 約 61.8万円、C-17が 約150.9万円(※1ドル/ 112円 30年度支出官レート)だ。(※参考:『防衛』平成30年10月24日)

>C-2のCPFHはC-130Jの4.4倍、C-17の1.8倍にもなる。ペイロード1トン当たりのCPFHは、C-2は10.5万円(26トン)、C-130Jは3万円(20トン)C-17(77トン)は1.96万円である。C-2のペイロード1トン辺りのCPFHはC-130Jの約3.5倍、C-17の5.4倍と、比較にならないほど高い。

>因みに1機あたりのLCC(ライフ・サイクル・コスト)はC-2が 約 635億円、C-130Jが 約 94億円、C-17が 約 349億円である。C-2の1機あたりのLCCはC-130Jの6.8倍、C-17の1.8倍である。これがペイロード1トン当たりのLCCになるとC-2は24.4億円、C-130Jは4.7億円、C-17が4.5億円であり、C-2の1機あたりのLCCは、C-130Jの5.2倍、C-17の5.4倍となり、これまた比較にならないほど高い。

自衛隊機のコスパを検証する(前編)
https://japan-indepth.jp/?p=55801


そして空自海自はこのような調達及び、維持コストが高い機体を電子戦機などに転用しようとしています。すでに空自のRC-2は調達されました。これらのコストが空自海自の予算を食って、本当に必要な他の予算がまわならなくなることは明白でしょう。

まったくもって当事者意識&能力の欠如としかいえません。
そしてこのような情報を財務省が公開しているのに、防衛省は隠蔽してきました。防衛省が出さなければ財務省もわからないはずです。つまり防衛省はできるだけ納税者や政治家、メディアにこのような「都合の悪い数字」が伝わらないように隠しているわけです。
その共犯が記者クラブです。彼らは情報が世間に知られないほうが自分たちの利益になるから、積極的に開示を求めません。

プロジェクト管理の課題②:LCC変動要因の実態把握不足(P20)
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○ LCCを抑制するためには、装備品のLCC変動時に、その要因や理由についての実態把握が必要不可欠となるが、現在のプロジェクト管理制度においては、変動時の事実関係や原因の詳細を把握することが十分にできておらず、分析も実施されていない場合も多い。
○ そもそも、防衛装備庁発足後5年経っても、コストデータベースが整備されておらず、LCCデータフォーマットの粒度も粗く不十分である点や、PMの権限や業務上もコストの実態把握が求められていない点が問題ではないか。

つまりはコスト管理がいい加減であり、当事者能力がないということです。
<LCCコストデータベースの整備状況>
現行データベース(平成28年4月から運用開始)
🎆 LCC管理機能、コストデータベース機能、EVM機能(進捗管理、
契約履行管理機能)を有することとなっていた。
🎆 平成29年度決算報告や、平成30年度予算執行調査において、以下の指摘が出たものの、現時点でもこれらの課題に未対応。
- 入力したコストデータの比較や分析を行うことができない
- データ情報が少なく、統計的手法の活用による推計ができない
- 予算、契約担当者等に情報が共有されず、有効活用不可

今後の予定(令和2年10月時点)
🎆 平成30年度に立ち上げた次期システム検討委員会における議論を継続し、新システムの構築を目指す。
🎆 次期LCCデータベースパイロットモデルは、最速で令和6年1月稼働予定。(今後3年以上、コストデータ利活用が困難な状況)

プロジェクト管理の課題③:管理体制・権限の一貫性の不存在(P21)
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○ PMはLCCの計数管理を行うものの、調達予算要求の主担当ではないなど、装備品全体のライフサイクルを一元管理することはできていない状況にある。
○ 現状では、装備品の全体及び各部品の要求性能は、構想に基づく研究・開発を経て(開発段階で得られた知見等を基にした上で)設計・仕様決定段階で決定されている。装備品の設計・仕様や調達数量の決定に伴いLCCが決まることを踏まえれば、例えば、①各幕僚監部の設計・仕様決定責任者が一貫して責任を負う、または②PMが設計・仕様決定の責任を負うこととすべきではないか。

問題の1つは各幕僚監部と装備庁の間で意思疎通がうまく行っていない。また組織がてた割になっており、更に各幕僚監部内でも縦割りの弊害があるということです。端的にいえば無責任体質です。
「責任者でてこい!」といっても事実責任者がいない状態です。

この資料では幕僚監部には、各幕僚監部の設計・仕様決定責任者が一貫して責任を負うこと。装備庁には、PM(プロジェクトマネージャー)が各装備品の設計・仕様決定の責任を負う、という改善案を提案しています。

調達改革の目指すべき方向性(P22)
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○ 有限な資源を最大限に活用し、防衛力を確保するためには、調達改革が必須。
○ そのためには、単に調達制度やコスト管理制度を改変するのみでは足りず、人員配置や権限の所在、インセンティブ構造も含め、防衛省全体としての組織改革が必要ではないか。

対応すべき課題
一貫した調達体制(権限と責任)の構築
最適な調達活動の前提となる統一的なコストデータベースの作成
• 装備品のライフサイクルに一貫して責任を負う者(例:構想責任者、PM等)を選任することで、LCC低減の実効性を確保。
• 防衛省内のプロセス分断を廃し、権限やインセンティブ構造も見直す等、組織最適化に向けた取組も必須。
• 全ての装備品を対象とし、部品単位でのデータ把握が可能なレベルで、部局の壁を超えて関係者間で共有。
• 企業間(国内外問わず)の競争を促進し、日本の装備品(ひいては企業能力)のレベル向上にもつなげる。

率直に申し上げれば、防衛省自衛隊には無理でしょう。装備庁長官は閣外閣僚として、外部のビジネスマンを当てるべきです。またその下に広く産業界や、防衛商社、更には外国からも人材を募った「軍事顧問団」編成して、大きな権限を与えて送り込み改革するしかないと思います。
基本的に防衛省にはビジネスに接していません。これは国営企業も同然の大手メーカーも同じです。そのような人たちの意識を変えていくのは極めて困難であり、当事者には無理だと思います。それは装備庁の実態をみれば明らかです。

調達改革のさらなる先に~安全保障の強化に向けた調達改革~(P23)
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○ 米国も、艦艇等の装備品の整備は厳しい状況であり、同国のエスパー国防長官は、「より良いものをより安く」調達できるようにする、「強く、健全な」防衛産業基盤づくりが重要であると発言している。
○ 仮に日本が「基盤」の一角を担うためには、企業能力の把握やコスト管理の強化などの調達改革が不可欠。
○ 調達改革の推進は、米国等の同盟国のニーズにも応えうるものであり、財政上にとどまらない効果をもたらすのではないか。
(抜粋)エスパー国防長官の発言 (2020年9月16日 ランド研究所)

我々の民間セクターのパートナー、特に、造船産業に対して、発言する。我々は、強く、健全な産業基盤づくり(robustand healthy industrial base )を、引き続き、連携して推進する必要があると考えている。そこには、現代的な造船関連施設基盤と高度な技能をもつ人材が必要である。
健全な防衛産業基盤(robustdefense industrial base)が必要であり、そのためには、企業間競争が必要であり、1社以上のサプライヤーが必要である。企業の研鑽により、より良いものをより安く(better product at lowerprice)調達できるようになる。

防衛省は国内企業の保護だといって甘やかしていて、コスト削減ができません。今後もコマツのように散々税金をつぎ込んだ挙げ句に撤退する企業もでてくるでしょう。
よく日本は輸出ができないから云々いう話をされる方がいますが、艦艇のジャイロなんて汎用品なのに、護衛艦と支援艦艇でそれぞれ国内一社が独占しています。優れたものが作れるならば別に汎用品なので、海外でも売らせてばいいわけです。それもやらずに温室においたままですから、性能や品質、コストが向上するわけがない。

同盟国たる米国は輸出云々いう以前に、納税者に対する責任を果たすという意識があります。ですから情報もできるだけ議会、会計監査院、納税者に公開しています。ですから外部から指摘が期待できます。それが調達の改善にもつながっています。
ところが帝国陸海軍よろしく、何でも秘密にする自衛隊ではそれは期待できません。
何度もいいますが、民主主義、文民統制の基盤は情報公開です。米軍ほど大した機密をもたない自衛隊が後生大事になんでもかんでも全部秘密にしているのは噴飯ものです。
なんでこういうところこそ、同盟国から学ぶことをしないのでしょうか。

また我が国の場合、防衛産業を振興するためのまともな機関が存在しません。本来は首相官邸、内閣府、防衛省、経産省、国交省、総務省などを横断した組織を作るべきです。
そうでないと、例えば航空機メーカーの事業統合などできないでしょう。
いまの業界を維持したまま小手先の改革をやっても無駄で、次第にメーカーも体力がなくなって緩慢な死を迎える将来が待っていると思います。


Japan in Depth に以下の記事を寄稿しました。
海自FFMと隊員減対策(前編)
https://japan-indepth.jp/?p=56206
海自FFMと隊員減対策(後編)
https://japan-indepth.jp/?p=56255

自衛隊機のコスパを検証する(前編)
https://japan-indepth.jp/?p=55801
自衛隊機のコスパを検証する(後編)
https://japan-indepth.jp/?p=55809
官庁の情報開示は途上国以下~記者クラブの弊害~
https://japan-indepth.jp/?p=55598

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
来年度の防衛予算5.3兆円が実はもっと多い訳
実際は5.7兆円、過小に見えているのはなぜか
https://toyokeizai.net/articles/-/398559







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この記事へのコメント

やれやれ
2021年01月13日 19:46
あまりに酷さにあたまがクラクラしてきますね。こんなに無駄ばかり出してトイレットペーパーが無いとかヘソが茶を沸かしますよ。
予算が湯水のように有るかの如き無駄遣い。呆れ返るばかりです。

「そして装備庁発足以前は防衛省ホームページで毎年公開されていた「ライフサイクル報告書」も公開されなくなりました。情報を公開しなければあれこれ突かれないだろうという姑息な思いがあるのでしょう。」
これを隠蔽と言わずして何というのでしょうか。
防衛省より隠蔽省に名称変更したほうがよろしいかと。
何でもかんでも隠したがるし何でもかんでも秘密。
覆い隠せば見えないからやりたい放題。

昨日今日の東京のPCR検査数が非常に少なくなっています。
相対的に陽性者数が少なくなっています。
どうもオリンピックをしたいが為に隠蔽モードに入ったのではないかと訝しんでいます。順調なら?明日あたりは3千人程度にはなると思われますが、今日程度の数字で来週から下り坂なら隠蔽に入ったと見て間違いない。
下降線になるのは緊急事態宣言後1月、解除できそうなレベルまで下がるのに早くて2月は掛かると見られています。
検査しないなら陽性者は減る。陽性者が減れば解除できると言う寸法です。実際の感染者数とは完全に乖離し市中はコロナ患者だらけになるでしょうね。
戦中やっていた事と何も変わらない、大負けしても勝っていると言うのと同じこと。またしても愚かな事を繰り返すのだろうかこの国は?にならなければ良いのですが。
偽陸士
2021年01月13日 23:01
まるで手塚治虫の陽だまりの樹の様に、白蟻に食いつくされる江戸幕府を想起させる事態ですね。
いや自由惑星同盟の末期かな。

アメリカも他所に構っている余裕が無くなっているのに、日本だけ例外だと防衛省は楽観視しているのでしょう。

しかも有権者も困難な情勢ではベテランに任せるとして、リピーター医師ならぬリピーター政党を信任しているのですから目眩がします。

令和になってもアルキメデスの大戦なんて止めて欲しいのですが、ただ財務省には櫂直がいる様ですので絶望するにはまだ速いのかなと。