陸自UH-Xが日本のヘリ産業を潰す
過去3年陸幕はOH-1をベースに開発されたUH-X開発案を提出してきましたが、内局が「現実性が無い」と拒否してきました。
陸幕は調達単価を12~13億円程度に抑えると主張してきましたが、その具体的な根拠を挙げてきませんでした。
因みに民間の5トンクラスの双発ヘリの値段は概ね16億円前後です。UH-Xは機体だけではなく、FLIR、自己防御システム、ナイトビジョン、ナビゲーションシステムなどを付加しなければいけません。
陸幕は調達単価が20~25億円(開発費、初度費込みで60億円)のOH-1をベースに、新たな専用エンジンを搭載するとしていますが、これではとてもそんな値段で調達出来るはずがない。
主契約社になるであろう川崎重工が、国家にご奉公するために原価割れの持ち出しすれば別ですが。
米海兵隊が採用したUH-1Yは約22億円です。電子装備などを除いた機体オンリーの価格は約19億円程度です(1ドル100円換算)。因みにUH-1Yはオンボード・システムに電力を供給するために補助動力装置を搭載しています。
UH-1Yは攻撃ヘリAH-1Zと8割以上のコンポーネントが共用ですから、兵站上極めて有利です。対してUH-XはOH-1、更にはこれまたOH-1をベースに開発するというAH-Xとファミリー化することにより、兵站負担を下げるといっています。
米海兵隊のUH-Y
果たしてたった120機しか調達されないUH-Xでそのような単価が可能なのでしょうか。
OH-1はそもそも調達単価も運用コストも高い機体です。
しかもUH-Xは新たに開発されるエンジンを搭載しますから、トランスミッションなども一新する必要があります。
つまり、もっとも部品点数が多く、高価なコンポーネントに互換性がないわけです。しかもOH-1の調達機数はたった34機です。部品の共用化による調達・運用コスト削減は極めて限定的です。むしろOH-1と無理やり共用することでコスト高になるでしょう。
つまり調達コストも運用コストもかなり高くなると予想されます。
ならば、まだしも既存のUH-1をベースに提案されている富士重工の案の方が遙かに現実的です。
しかも開発費が300億円、初度費も300億円程度、都合600億円はかかるでしょう。600億円もあればUH-1Yの輸入型が一機25億円として、24機、つまりUH-Xで必要とされている機数の買えます。約五分の一がまかなえる金額です。より小さな機体ですが、米陸軍も採用したBK―117は7億円程度でしょう。これならば86機調達できる金額です。しかも開発費はもっとかかるかも知れません。
当然ならが実質的な調達コストは開発費と初度費を頭割りして加える必要があります。つまり一機あたり、五億円程は上乗せされます。
今回内局が予算を認めるのは陸幕に抗しきれなかったからだと言われています。つまり、内局が陸幕を抑えきれなかった、あるいは陸幕のメンツを忖度したのかも知れません。
内局は調達価格が高くなるようであれば、生産は認めないというスタンスです。
ですが、理性では認められないものを、メンツや関係の維持のために認めてしまったわけです。
そのようなもののために300億円(来年度にすべてが認められないかもしれませんが)をどぶに捨てる決定をしたわけです。
さて民主党、および財務省はこのプログラムをどう評価するでしょうか。
メーカー側にも大きな問題があります。
民間市場にまったく売れないものをつくっても将来の商売には貢献しません。
例えば初めから民間で売れる汎用ヘリを開発し、BK117同様に国内外の市場で売れれば日本のヘリ産業の売り上げは大きくなるでしょうし、防衛依存率も減ります。無論川崎重工も儲かり、株主もハッピーです。
防衛省が開発費をもって民間ヘリを開発するようなものです。
ヘリは軍民の垣根が低いですから、全体の売り上げが増えれば、自動的に防衛省が負担する開発費も減ります。また量産効果によって調達単価も下がります。
インドや韓国のメーカーはそれを狙っていますが、技術が追いついていません。日本のメーカーは技術力も生産力でも大きな力をもっていますが、それを生かしきれていません。非常にもったいない。
外国のメーカーとジョイントで、共同開発を行って内外のマーケットで売るべきです。今日日ヘリメーカー最大手のユーロコプターでさえ、単独で開発などしてません。
勿論そのためには市場の要求と自衛隊の要求をどこかで折り合いを付けることや妥協もいるでしょう。ですがそれを上回るメリットがあるはずです。
要はメーカーの経営陣はリスクを取ることを嫌っているわけです。
将来につながるような商売をやる気はない。自分たちがの任期が終わるまでは年末の道路工事だけで喰っている地方の土建屋よろしく、国にたかっているわけです。まるで国営企業です。
同社の経営陣は自分たちには経営者としての才覚に欠けているだから天下りを受け入れて利権でと税金を私してどこが悪いと開き直っているようなものです。
さすが過去、長年にわたって橋梁談合などで税金を食い物にしてきて恥じ入らない会社です。
自社の先輩達が果敢に挑戦して獲得したBK117という遺産で喰っているニートみたいなものです。自助努力を否定し、ひたすら利権と過去の遺産に頼る活力のない会社は、いずれは自滅していきます。
これまでこのブログで述べたように防衛予算、特に装備調達費は減っていく傾向にあります。これまでのようにオーバープライスの国産やライセンス生産装備の調達は無理になってきています。
事実、練習用へりは既に輸入に切り替わっています。
このままいけば作戦用ヘリもすべて輸入に切り替わるでしょう。
まともな経営者であれば、まだ余力があるウチに民間市場に打って出るか、事業転換を図るでしょう。残念ながら川重の経営陣はそのように思っていないようです。
お国に対するご奉公ならば、むしろ防衛省向けの商売から手を引いて民間ヘリ市場で成功する方向を目指すべきです。
自衛隊用のヘリをいくらつくっても経済効果はありません。穴を掘って埋めるようなもので、経済波及効果は低い、税金を食いつぶすだけです。
民間ヘリで大きなシェアを取り、多くの従業員を雇用し、多額の税金を納めることが余程お国のためになります。
ぼくはかつて防衛省の利権で喰っていた生保二社が直につぶれると予言しましたが、事実その通りになりました。ヘリ産業もこのままではそうなるでしょう。
陸幕、内局、メーカーがよってたかって、ヘリ産業を潰そうとしているとしか思えません。いいたくないですが、利敵行為をしているようなものです。
こんなことを繰り返していれば日本のヘリ産業に未来はありません。
今年の防衛予算は削減される予定です。関係者が当事者意識を持つことを切に願います。
陸自のUH-Xがヘリ産業を潰す
http://kiyotani.at.webry.info/201006/article_14.html
防衛産業は、再編はヘリから始まる?
http://kiyotani.at.webry.info/200908/article_3.html
将来多用途ヘリコプターはOH-1ベースの新開発、でいいのか?
http://kiyotani.at.webry.info/200910/article_1.html
財務省資料「平成22年度日本の財政と防衛力整備」 を読む その1
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_10.html
財務省資料平成22年度「日本の財政と防衛力整備」 を読む その2
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_11.html
財務省資料平成22年度「日本の財政と防衛力整備」 を読む その3
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_12.html
財務省資料平成22年度「日本の財政と防衛力整備」 を読む その4
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_14.html
財務省資料平成22年度「日本の財政と防衛力整備」 を読む その5
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_15.html
財務省資料平成22年度「日本の財政と防衛力整備」 を読む その6
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_16.html
財務省資料平成22年度「日本の財政と防衛力整備」 を読む その7
http://kiyotani.at.webry.info/201008/article_17.html
中央公論新社
清谷 信一
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この記事へのコメント
軍事素人の背広組があれこれ口出しをしたり、
制服組の提案を封殺したりする現状では、
まともな防衛政策ができるはずがありませんね。
整合性が無いと思われる部分を抜き出してみたらどうでしょうか?返答しやすいように。清谷氏も忙しいのかもしれません、最近書いた記事の内容も忘れてしまったとしたら相当なモノだと思います。そういえば川崎重工の中の人に防衛関連の話題をしたら『ニヤリ』としかしませんでした。
面d(略)
…と言っていてもしょうがないので…少しだけ
全般の要旨としては産業保護のためのUH-X開発に対する批判かと思われますが
文中ではライセンス生産については否定的な考えしか出てきませんので輸入を押していると思いますが(>を付けるのは前回の記事です)
>生産基盤を維持するのであれば、FXでF-35という選択はありません。ライセンス生産できる既存機から選択すべきです。
と言う文からは生産基盤を維持することに意義を見出していらっしゃるようですが
軍民の垣根が低いからと言って今のところ民間ヘリの開発に防衛省は予算を出せませんので
下手したら川崎がヘリ製造から撤退してしまう可能性もあります
戦闘機とヘリは違うと言う意見も有るかと思いますが、優先的に仕事をあげるのは間接的に会社を衰退させるかもしれません。だからと言って切ってしまうのは直接的に潰す意図があるかのように思えます。
特に生産基盤の維持に関して意見の揺れ動きが激しいと思います(潜水艦の件でも)
でFXの記事の中でも
>F-35の情報開示に来年度7億円以上(関係経費含む)が要求されるようですが、バカじゃないの?
と
>ところが防衛省はヘリコプターのような高価な買い物ですら、試乗すらせずにカタログだけみて購入を決定したりしてます。もっと装備の選定に関して費用をかけるべきです。
だったり…このような自己矛盾が有ってコメントもしづらくなっております
最後に
>一両惜しみの百両損、というケースが多々見られます。
これはほとんどの投稿に言えますね(笑)
日本の国内開発・生産時の価格と米軍の調達価格を比較しても、現実的なケーススタディにはなりませんよ。米軍の国内調達価格と、米国外に売るFMS価格、ライセンス生産許可時の日本での国内生産価格はちゃんと区別しましょう。前二者では国内開発価格と単純比較しても、フェアな比較ではありません。ちゃんと調達形態のメリット・デメリットも言及してください。
あと企業活動は道楽じゃありませんから見込みなく投資はしませんよ。MH-2000も盛大にこけましたし民間市場を甘く見てませんか