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zoom RSS 【サムライ・インフレーション】武士道の大安売りを憂う−近藤勇症候群

<<   作成日時 : 2006/03/25 13:05   >>

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 近年、日本人はサムライたれとか、武士道を見直せ、と云った論調が非常に多くなりました。最近では藤原正彦氏の「国家の品格」やら、WBCに対する報道などがその好例です。

 これだけ武士道やらサムライが話題になったのは「失われた10年」で我々日本人が自信を失って、そのよりどころを武士道に求めたからではないでしょうか。
 ぼくは日本人が品格や矜持を持つべし、ということには基本的に賛成です。武士道もそのよりどころとなってもいいと思います。

人間は外国に行くと愛国者になるといいます(まあ例外もありますが)。実際ぼくもそのひとりです。取材先で自分しか日本人がいないというような場合、正に日の丸を背負っているような気になります。

 実際に外国に行くと日本人というだけでどれほど多くの恩恵を蒙っているか実感できます。それを感じられない人は感性が摩耗していると思います。これは我々の先人達の努力の積み重ねによるところが大きいわけです。こういうとき日本はいい国だなあと、しみじみ思います。

 よく国家など古いという「進歩的」な人がいますが、自分が日本人としてのアイデンティティを持たず、自国の言語や文化について知らなければ外国に行って相手にされません。どこに行っても我々は日本人なんですから。
 しかしながら、昨今のブームをみていると、武士道のなんたるかをよく考えずに、やたら武士道、サムライと言う言葉を連発するのは危険だと思います。

 映画版の「トワイライト・ゾーン」の第一話でビック・モロー扮する白人サラリーマンが「俺はジャップやニガーやカイク(ユダヤ人の蔑称)よりエライ、なぜならば俺はアメリカ人だからだ!」と酒場でオダを上げるシーンがありました。

 これは単に白人だから、アメリカ人だから優秀である、そういう盲目的な愛国心の発露、或いは田舎白人のコンプレックスの裏返しです。盲目的に武士道、サムライと叫ぶのはこれと同じような危険性をはらんでいます。
 根拠無き自信と優越感ほど始末に負えないものはありません。アメリカの田舎白人やらお隣の国をみればよくわかるでしょう。

 今巷で武士道と言われているものは、その多くが新渡戸稲造の「武士道」、ないしは江戸時代の武士の規範などをそのよりどころにしていると思います。

 ですが、武士階級はそもそも平安時代に生まれたといわれております。平安時代、鎌倉時代、室町時代、そして下克上の戦国時代のサムライは、軍人から官僚となった江戸時代の武士とは随分違ったメンタリティを持っているでしょう。

 これらを全部武士、サムライとひとくくりにするのはいかにも乱暴でしょう。

 しかも江戸時代の武士というのは随分と忠義という面では不義理だったようです。忠臣蔵があれほど人気になったのは江戸時代を通じて主君の仇討ちが非常にすくなかったからです。武士道至上主義者はこういう都合の悪いところには目をつぶってしまうようです。

 更に云うならば明治維新前後に日本人の8割程度は農民で、それに加えて商工民がおったわけで、、武士階級は5パーセント程度と云われております。武士は支配階級であったが人口的にはマイノリティです。

 つまり長年にわたり多数派の日本人はサムライではなかったわけです。それを現代の我々が自分たちをサムライだと呼ぶことに気恥さを感じないとしたら滑稽です。

 町民や百姓から武士になった人間もおります。その典型例が新撰組の近藤勇でしょう。彼は武士の出身では無いが故に、武士よりも武士らしくあろうとした。そうぼくは思います。

 また明治以後の日本軍はサムライたれ、という気風が強くありました。ですが、兵士は勿論将校、将官まで武士階級以外の出身者の方が人口比からも多かったわけです。彼らが負けたら腹を切りったり、沈む艦と運命をともにするとか武士の真似ごとをしました。

 しかし、これらの「簡単に死ぬ」という武士的な行為は軍事的整合性に反するものです。むしろ利敵行為であるとすら言えます。特に第二次大戦ではこれらが敗戦の原因になったことは云うまでもありません。
 またこのようなねばり強さの欠如は、現在に至るまで外交での弱さに繋がっています。これを武士道と呼ぶならば戦国時代のふてぶてしいサムライたちは嗤うでしょう。


 ぼくはこのような傾向を「近藤勇症候群」と呼んでおります。

 武士でも楠正成や真田幸村のようにしぶとく生き残り、出来るだけ敵にダメージを与えるといった人物もいたのですが、そういう人物は評価されない傾向が有るように思います。

 無論維新や明治の軍隊で武士、ないしは元武士階級が果たした役割は大きかったわけです。ですが武士の行動に短所は無かったのか、ということは見直しが必要でしょう。何でもかんでも武士を美化するのはひいきの引き倒しです。

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コメント(24件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも拝見させてもらってます。
今までコメントしたことはなかったのですが、
今回は侍というものに対して
目からうろこが落ちるような気がするほどの
名文だと思います。
感心しました。
IY
2006/03/25 15:10
ありがとうございます。
まあ、単に天の邪鬼という気もするのですが、みなが一方に傾くという傾向は好きではないもので。
キヨタニ
2006/03/25 23:06
はじめてコメントします。
 私も武士道礼賛についてはもともとの根拠の危うさを考えると(葉隠?)あやしいと思っている一人です。実際は「だったらいいよなあ」というぐらいの理想像の話なんじゃないでしょうか。
 よく冗談で中谷彰宏の本だけが万が一後世に残ったら子孫が「90年代の男はこういう生き方をしていた」とか勘違いするんじゃないの?という話をしています。
もん
2006/03/26 00:31
人間?のする事に、100%の完全は無いと思っています。ふと疑問を持つ事の大切さ、だからこのブログを見ています。
団塊の親父
2006/03/26 08:48
中谷章宏(笑)。
内容が全くないのにあれだけ売れる本を書けるのは驚嘆に値します。羨ましい限りです。

自分の信じるものでもたまに疑う、ないし見直してみる、そういうことを忘れると宗教になってしまうのが怖いですね。

漫画家の山岸涼子氏の話。こどもの頃山岸家では、朝に飯で卵をかけるきに砂糖をかけていたそうです。で、彼女は修学旅行でクラスメートがみな卵に醤油をかけていたことに衝撃を受けたそうです。自分の「常識」それがいい悪いは別として疑って見る必要があると思います。
キヨタニ
2006/03/26 12:20
随分前から言われていたことだと思いますが
あんまりにも自覚がない人が多いせいかついに明文化されてしまいましたね

特に政治家が公共の電波を使ってサムライ(必ずカタカナで)なんて得意げに言われるとこっちが恥ずかしくなります

ただ大多数が農民だったなんて言い出すと
カウボーイもknightもコサックもアラブ商人も
みんなマイノリティになりますよ

正子
2006/03/26 12:39
自分の行動に責任を持つとか、礼節を重んじるといった意味では自主的に目指す分にはいいんだけど、これを強要したり流行のように捉えると途端に危険な思想に…思想ですらないか。
単なるファッションに成り下がりそうなのが怖い所。
そういや以前市ヶ谷の講堂で切腹した自称サムライさんもいましたな。あそこで死ぬんじゃなくしぶとく生き延びていれば良かったのに。
それとも彼の場合も単なる「熱病」の類だったのかと。
まるで共産主義幻想のような。
たとえば敵に捕まって拷問され、救援の当てもなく秘密を漏らすわけにはいかないという場合ならまだしも、「自決」をした連中の殆どは逃げたとしか思えませんでした。
責任を取るなら一人でも多くの敵を倒し、味方を支えるべきでしょう。
D・Dダレル
2006/03/26 14:40
日本人は、極端から極端に走る傾向がありますからね。注意が必要です。
しかし、日本人は、「日本人である」ことを自覚する事が、現在求められているということでしょう。
シロ
2006/03/26 16:40
 極端から極端とは、日本の国民性としてよく言われます。自民の野中はこういう日本の国民性に「恐怖を感じる」とかほざいておりましたが、しかし、極端から極端へのぶれ方は大陸国家のそれの比較ではありません。確かに終戦後は、神国日本から平和国家へひっくり返りましたが、革命後のフランスやロシア、中国のような大粛清で何百万もの「反革命分子」を虐殺するようなことは行いませんでした。
 逆に良くも悪くも、日本人は中途半端です。戦国時代の覇者で、根絶やしになったのは、せいぜい豊臣氏程度です。古くは平家ですら根絶やしにはできなかったし(私もその子孫の一人)、石田光成の血ですら、徳川家の中に入っている。幕臣の中で、明治政府で栄達した者も少なくない。
土門見人
2006/03/26 17:46
ともかくブームは疑ってみる、ということで。
キヨタニ
2006/03/27 12:26
そういえば、関西の番組で評論家の三宅久之氏が『国家の品格』を武士道を美化しすぎている、と言っていて宮崎哲弥氏も「私もそう思う」と言っていましたね。昨日爆笑の太田も武士って昔は国民の数パーセントでしょう?と言っていました。個人的に武士道という言葉は好きですね。実践はとてもできませんが。でも日本人は武士道というより本質に道徳という美徳を有した民族のような気がします。昨今はその二極化が進んでいるようにも思えますが。
渡部
2006/03/27 15:58
沈む艦と運命をともにするとか武士の真似ごとをしました。

>正直、山口多門には生き恥を晒そうが何しようが、捲土重来を喫して欲しかったと思う一人です。実は生き続ける事の難しさって、余り評価の対象になっていない気はしていました。責任を取っての自決は一見潔い解決方法のように見えますが、ケースによってはむしろコスト高になってしまうケースもあります。

人命にコストの概念を持ち出すと眉をひそめる方もいらっしゃるのでアレなんですが、将校一人育てるコストって本当にシャレにならないくらい高いんですよね。下手な船より高い。

それは、現在にも通じていて、企業の幹部候補を一人育てるのに掛かるコスト、マンパワーを考えると、おいそれと辞められた挙句勝手に独立さえようもんなら、思わず首撥ねたくなってしまいますよ(w

そう言えば、昔、信長の野望で、兵員&鉄砲フル装備の明智光秀に最前線でいきなり寝返られた事があったなあ・・・(しみじみ
北極28号
2006/03/27 21:19
敗戦の反動で、「戦前の日本は、すべて悪」というのが、戦後の日本の出発点でした。
これには、GHQの日本弱体化政策の思惑が絡んでいるのでしょう。
戦前の前面肯定も前面否定も、どちらも極端だと思います。
ただ、日本人の場合極端から極端に走っても、血の雨が降ることは少ないようですね。若いとき攘夷をやっていた連中が、鹿鳴館で猿真似ダンスに講じるなどまだ、かわいいものかもしれません。
シロ
2006/03/28 11:27
>人命にコストの概念を持ち出すと眉をひそめる方もいらっしゃるのでアレなんですが、将校一人育てるコストって本当にシャレにならないくらい高いんですよね。下手な船より高い。

以前三沢のF-16が、太平洋のど真ん中で墜落したとき、海自の飛行艇が、パイロットを救出しました。あれは、本当に有難かったと思いますよ。彼が死んでしまったら、今まで費やしてきた費用と時間が、文字通り水泡に帰すわけですから。詳しくは知りませんが、戦闘機パイロットを養成する金額は、相当なものになるはずです。

しかし、「自衛隊の海外派兵の次は、徴兵制だ!」とオドス平和主義者は、軍人が今や高度化、専門化している事実を知りませんね。今や、兵士は簡単に補充のきくものではないから、簡単に死なせるわけにはいかないし、使い捨てなど論外なのにね。
大体、海外派兵=徴兵制なら、なぜフランスは志願制に移行したのでしょうかね?また、海外派兵を始めたドイツも、軍備の縮小と徴兵制廃止の方向に向き始めた理由が、説明できません。
シロ
2006/03/28 11:42
将官、特に優秀な将官が自決するのは損失以外なにものでもありません。
費用はもちろん、戦略的に大きな損失です。
七生報国といいますが、あたしゃその例を見たことありません。生きてこそ国家に貢献できるといものです。

近代徴兵制発祥の地フランスでも02年から志願制になっていますが、いわゆる「文学者」と
いう連中はやたら徴兵制が復活するだの「軍靴の足音がする」だのカビの生えた言葉を繰り返すので困っています。今度ペンクラブの会合で教育してやろうかと思っています。
キヨタニ
2006/03/28 12:33
>今度ペンクラブの会合で教育してやろうかと思っています。

 止めときなはれ。阿川弘之にグラス投げつけた大江健三郎といい、DVの権威井上ひさしといい、平和主義者ほど一個人としては暴力愛好家が多いようですから。文化人の世界では……
土門見人
2006/03/29 22:59
日本の平和主義者、反戦主義者って戦争や軍事について全く勉強しませんね。だから、間の抜けたことばかり、言う訳です。
戦争を起こさないためにも、軍事を知り、戦争の研究が必要だと思うのですが。
体は、現世にあっても脳みそは、アッチの世界に行っている「マトリックス世界」の住民でしょう。
イベントを開いて歌を歌ったり、鳩を飛ばしたり、この不況のご時勢に130万円も使って舟遊びしていれば、平和に貢献できると思っているのですが、所詮は ショーでしょうね。
シロ
2006/03/30 11:33
アメリカも、戦争でエゲつない商売をしていますが、もっとエゲつないのは中国でしょう。
アフリカの紛争地帯のあちこちで、対立する勢力両方に武器を無差別にばら撒いている。しかも、よそ様の武器を無断でコピーした海賊版を。
そうした場所では多くの人々が難民となり、子供はゲリラにさらわれ、男の子は兵隊、女の子は、兵隊相手の性処理用の性 となり、平和主義者の大好きな平和と人権が蹂躙されているのですが、無関心です。頭の悪い僕には、このことが全く理解できません。
国際世論も、中国にあまり攻めませんが、人権や平和より自分の儲けの方が、大事ということでしょうな。世の中冷たいものです。
シロ
2006/03/30 11:43
彼らの頭の中の世界はバーチャルですから。

現実を見つめると「ごっこ」が楽しくないんですな。
キヨタニ
2006/03/30 17:47
拝啓、米中の基本方針は 命じゃ お金は買えないのよ ですな。 草々
(^-^)風顛老人爺
2006/04/04 07:15
自分は正義、という根拠無き盲信をたまには疑ってほしいものです。
キヨタニ
2006/04/04 19:28
http://blogs.yahoo.co.jp/riyushirou3987/32189524.html
武士道の元祖葉隠れを読むと判りますが、
実に実用的的なもので山本の書いた武士道が武士道としては古いほうでしょう・・・
”武士道とは死ぬことと見つけたり”
有名な葉隠れの一節です。
この書のどこにも道徳など説いては居ませ!!
奉公する武士の心得の覚書です。
柳四郎
2006/05/25 14:58
武士道といっても時代によっては変わりますからね。しかも江戸時代に主君の無念を晴らす仇討ちやったのはごく僅か。故に忠臣蔵が劇化されたわけです武士って薄情だったのねえ、とは武士道原理主義者の方は云いませんよね。
キヨタニ
2006/05/25 16:21
軍靴の響きとよく言われるけど、ここ最近の流行は足音を響かせない靴なのになぁとヤボなツッコミを入れてみる
D・Dダレル
2006/07/14 00:46

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