日本製装甲車輌用ゴム製履帯に勝機はありや?

日経の残念な記事が防衛産業再生の的はずれな指南をしています。
海外で世界の防衛産業も軍隊も取材したことなく、商売もしたことがない連中はこれだから、という内容でした。

https://kiyotani.at.webry.info/202201/article_6.html

さて以前ご案内したゴム製履帯の話です。
装甲車輌用ゴム製履帯、CRT(Campsite Rubber Track)はカナダのソーシー(Soucy)社とタイのチャイセリChaiseri Metal And Rubber)社が有名です。ロシアや中国でもゴム製履帯を使用している車輌はありますがサプライヤーは不明です。

防衛装備庁でも研究はしています。
https://www.mod.go.jp/atla/research/dts2012/R1-5p.pdf

ソーシー社では50トンクラスの車体用のCRTも開発しています。我が国のCRTのレベルは不明ですが、仮にソーシー社と同じ程度の製品を作れるのであれば、海外市場でも大きな可能性があります。

CRTの品質や耐久性はこの10年ほどで大きく向上しており、CV90のような40トンラスのAFVにも採用されています。ですが、未だ金属製履帯が主流であり、CRTのメーカーは少ないわけです。CRTは有人車輌にとどまらずUGVにも多用されるでしょう。また民間の建機用の需要も膨大なはずです。しかも輸出に関して面倒くさい制限も受けません。

先の前提で、メーカーにやる気があるならば成長事業になる可能性は小さくありません。
そのためには陸自の装軌車両は既存も含めて全部CRTに取り替えるなどして、国内での需要を大きくして、生産コストを下げるなど戦略が必要です。

ジェーンズのIDR誌の2021年10月号に「Continuous revolution: The rise of Campsite Rubber Track technology」という記事が掲載されており、大変興味深いです。

「ウォーリアICV用のCRTは金属製に比べて、60パーセント、1,502kg軽量であり、総重量を5パーセント軽量化できる」
ソーシー社によれば同社のCRTは鉄製の履帯に比べて約50パーセント軽量で、水中の場合はCRTに浮力があるので79パーセント軽量となる」これは英陸軍の調査のデータです。

「CRTは軽量であるために、通常約28パーセントAFVの航続距離が伸びる。CV90のトライアルの場合、約40%の向上が認められた。
「英陸軍のウォーリアの5千キロのトライアルではCRTは路上で16パーセント、路外では24パーセント燃費が向上した。このトライアルでは5千キロ中。25パーセントが路上、75%が路外で鉄製履帯での航続距離は418キロに対して、CRTでは535キロ、28%の航続距離が認められた。」「同じ後続距離でいいならば、燃料タンクを小さくできて更に200キロの軽量化が可能」
その分車体も軽量化、小型化できます。

「2016年にノルウェー陸軍が行った重量42トンのレオパルトC2を使用したCRTに関する実験では33パーセントの燃費向上、50パーセントの航続距離の結果だった」

CRTは騒音と振動の面でも金属製の履帯に対してアドバンテージがあります。

「英陸軍のエイジャックスICVのトライアルではCRTを使用した場合、騒音と振動は60~70パーセント削減できた」

「英陸軍のウォーリアのトライアルではCRT使用時時速31マイルでの振動は車長席で45パーセント、
操縦手席で28パーセント、砲手席で39パーセント、後部兵員室では57パーセント、その最後尾は75パーセントであった」


CRTはゴム製履帯とよばれるので、誤解も多いですが単にゴムを整形したものではなく、ケブラーや鉄のメッシュなどが何層にも積層されています。このため切断に大変強くなっています。また記事では触雷の際など、CRTは衝撃を吸収して衝撃を和らげ、STANAGのレベル3、TNT8キロの履帯下での爆発でも依然走行が可能ということです。
またダメージを受けても応急キットで、30分ほどで修理ができ、時速30キロで100キロは走れるとのことです。

「2013年にノルウェー陸軍が行ったトライアルではM113A3を使用した場合、路外での軟弱地盤やブレーキの制動距離などの総合的にCRTを使用した場合、191パーセント向上し、スノーチェーンを使用した場合240パーセント。ブレーキをかけた場合、金属製履帯が静止するまで330メートルに対してCRTは154メートル、CRTにスノーチェーンを併用した場合は116メートル」

CRTの耐久性は高く、カナダ軍がC2戦車を使用したトライアルでは概ね5千キロです。
またより軽量のバイキングやブロンコといったATVでは1,000キロを超えます。オーストラリアのトライアルに参加した韓国のレッドバックICVでは6000キロとのことです。そして交換は6時間もあれば可能ということで、これも大きなメリットです。

金属製履帯は路上を走る際にはゴムパッドを装着する必要があり、これは結構手間です。しかもパッドの重さは履帯の約3割になり、スペアも必要です。
パッドの寿命は400~80キロ程度であり、交換には18時間かかります。英軍が東欧で、エイジャックスの行った2千キロの走行では1輌あたり7トンが必要だったそうです。
が、CRTには必要がありません。
「英軍のウォーリアのトライアルでは5千キロ走行時に、CRTは415時間メンテナンス時間を削減できた」

ソーシー社では50~60トンの車両用のCRTの開發も成功しています。

CRTの欠点は導入時のコストが金属製履帯に対して約10パーセント程度高いことです。
ですが維持費が安くソーシー社によれば20から25年の運用で金属製に対して4割ほど安くなるそうです。
無論これだけメリットがありながら、未だに履帯の主流になっていないわけですから、何らかも問題があるのかもしれません。それも含めて今後も取材を続けていくつもりです。

このようにCRT導入のメリットはあります。まず金属製履帯が多くのコンポーネントから成っており、それらの保管も必要です。上記のように兵站がかなり軽減されます。また整備にあたってのロードワークも低減されるので、人で不足の陸自には必要でしょう。であるから装備庁も開發を行ったのではないでしょうか。

ですがいつもの調子で実用化すると、調達数が少ないために極めて高価なものになって、総合的にみれば金属製履帯の方が安い、ということになりかねません。

ですから、導入するのであれば前述のように、量産できる体制を確保し、輸出も視野にいれるべきです。同時に産業用、UGV用なども開発して商売として持続可能にしていくべきです。それができないのであればCRTはもとより、金属製履帯の開発や調達もやめたほうが宜しいかと思います。
現在のところ、防衛省、装備庁にそのようなビジネス面での目先の利く人材があまりいないように見受けます。

Soucy社のサイト
https://www.soucy-defense.com/advantages/


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