10式戦車に乗員用のクーラーは存在しない

 10式戦車に乗員用のクーラーは存在しません。クーラー自体は装備されておりますが、これは電子機器の冷却のためであり、乗員のためではありません。

 新戦車には市販品を転用したクーラーが装備されているが、これはあくまで電子機器を冷却するためのもので、乗員はその恩恵に預かれない。

 これはコンバットマガジンの技本の10式戦車(当時は新戦車)の担当者に対するインタビュー記事で述べております。これは昨年WEBRONZAに転載してあり、無料で読むことができます。10式戦車の開発担当者に直接長時間インタビューを行った記事はぼくの知る限り存在しません。
 http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013121000007.html

 ですが、ネット上では乗員向けのクーラーが付いていると信じている人が多く、ブログにもその手のコメントがありました。
 確かに試作段階では付いていなくても後で追加装備することが無いわけではありません。

 そこで技本の広報に確認しました。量産品については陸幕の管轄なので、そこからの回答ということで、乗員用クーラーが付いているという回答がありました。
 
 ぼくはこれに疑問を持ちました。
 まず先のぼくのインタビュー記事は開発がほぼ終わった段階で行ったものです。
 ところが10式の開発段階ではそのような乗員用クーラーを搭載した試作品は存在しませんでした。

 これが機動戦闘車のように一部の試作車にクーラーが搭載されていれば、量産化に際してクーラーの搭載は容易に行えます。ですが、10式ではそれはありえないわけです。

 試作・試験段階で装備されていなければ、新たにシステムの選択から必要になります。戦車の場合キャビン全体を冷やすのか、あるいはNBCスーツを着て、そこにダクトを通じて冷風を送り込むのかを選択する必要があります。後者の方がより消費電力は少なくてすみますが、快適性は劣ります。
 どのようなシステムを搭載するのか、試験用のシステムの調達が必要であり、その適合試験もいります。それが搭載されいれば、外観に変化が認められるはずですが、そのような変化は量産型ではありませんでした。

 更にいえば消費電力が増加することによって補助動力装置の出力を上げる必要も出てくるかもしれません。その場合、補助動力装置の変更も必要となります。因みに補助動力装置の出力は9kwです。

 また装備適合のための試験期間も必要になります。
 
 このような観点から回答には疑問があったわけです。


 そこで、再度陸幕の広報室に技本の広報とのやり取りの経緯を話し、10式に再度機器冷却用ではなく、乗員用のクーラーは装備されているかと質問しました。
 その回答は以下のとおりです。
 
 試作品及び量産品ともに「要部冷却装置(乗員用ではなく、器材用のクーラー)」が
備え付けられてあります。

 つまり乗員用のクーラーは搭載されておりません。
 我々プロは当局の回答でも、ときに疑うことが必要です。

 先の記事にも書いていますが、10式は調達単価、重量の低減を最優先されて開発された戦車です。

 今回の開発では計画当初からライフ・サイクル・コストの抑制が要求されていた。このため民生品や既存のコンポーネントを多用するのみならず、性能と価格をトレードオフした設計、機能のソフトウェア化などが盛り込まれた。性能と価格をトレードオフというのは各機能やコンポーネントに関して技本が陸幕に対して、この部分を高性能にするとこれだけコストが上がりますと説明し、コストを削減するために敢えて高性能化を諦め、費用の安い既存の技術やコンポーネントを採用した部分もある。このような取り組みは過去あまりなく、評価出来る部分だ。ただ、これかららのことから巷で噂されているようなあらゆる新規基軸をふんだんに盛り込んだ画期的な戦車ではない、ということがわかる。


 つまり、コストと重量低減のために「諦めた」装備や機能、素材などは多岐にわたっていると考えるのが自然でしょう。
 ですが、ネット上では10式はあらゆる面でレオパルトA7やM1A2の最新型など諸外国の3.5世代戦車よりも優れているのだという主張が散見されます。
 しかしそれは願望でしかありません。

 例えば仮に10式で採用された鋼製の圧延装甲板が世界最高性能でも、僅か数センチでタンデム弾頭の対戦車弾を防止できるはずはありません。同様に地雷やIEDに対して生存性は期待できません。10式の装甲は正面は厚いものの、その他の部分は90式と同等か毛の生えたくらいでしょう。
 対してメルカバVなどは複合装甲やセラミック装甲などをふんだんに使っています。

 世界最高性能の戦車が僅かな開発費で、重量が20トンも軽く、量産単価が何割も安いという「うまい話」は世の中にありません。

 現実を見ずに自国の兵器は最強、自衛隊は強いと信じこむのはある種の原理主義であり、このような情緒で国防を語る上では有害以外のなにものでもありません。

関連記事
 夏場は35度になる、高温多湿の我が国固有の環境を鑑みて、戦車も冷房は入れません。
http://kiyotani.at.webry.info/201308/article_7.html


それから先週陸幕長に平成25年4月、徳地局長の国会答弁において、AAV7の導入については、平成29年から30年くらいに結論を出すと答弁されていたが、先日、報道官からは平成26年中に結論を出すとのことだった。これは、中国との武力衝突が近い将来起こり得るという様な危機感があるからか?』
と言う趣旨の質問をしました。その回答が陸幕広報室から併せてきました。

それは、
「徳地局長の答弁は、平成25年4月当時判明している状況での説明であり、じ後、米国との調整等が進んだため、これに伴う変化」
だ、そうです。
別に中国との緊張が高まったわけでも、武力衝突の危機が増したわけでもなく、単にアメリカ側と話したら、実質的にトライアルを端折ることになった、といういうことでしょう。
しかも既に中期防では事実上導入するとしています。

アメリカの意向によってはじめに導入ありき、だったのではないでしょうか。
これではまるで植民地の軍隊のようです。「美しい国」とか「戦後レジームからの脱却」とかどこに行ったのでしょうかね。


新しいウェブニュースサイト、NEXT MADIA Japan In-Depthに寄稿しております

陸上自衛隊の水陸両用車の調達先は『アメリカ製』だけが候補の「出来レース」?〜水陸両用装甲車=AAV7は導入ありきでいいのか①
http://japan-indepth.jp/?p=2220
陸上自衛隊の水陸両用車の調達先は『アメリカ製』だけが候補の「出来レース」?〜水陸両用装甲車=AAV7は導入ありきでいいのか②
http://japan-indepth.jp/?p=2220
陸上自衛隊の水陸両用車の調達先は『アメリカ製』だけが候補の「出来レース」?〜水陸両用装甲車=AAV7は導入ありきでいいのか③

http://japan-indepth.jp/?p=2234
安倍政権の安全保障軽視が露呈!やっつけ仕事の国防計画?〜安倍首相はまともに安全保障を考えていない
http://japan-indepth.jp/?p=1956
これではまるで中国政府の記者会見だ!」〜情報発信強化を謳いながら、安全保障報道で外国メディアを差別する安倍政権

朝日新聞のWEBRONZA+に以下の記事を寄稿しています。
オスプレイはいっそのこと、政府専用機にhttp://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2014011600005.html
陸自向けのオスプレイ導入は「裏口入学」だ
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2014011500004.html

陸自の水陸両用装甲車、AAV7導入は裏口入学だ
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013122500002.html?iref=webronza

日経が伝えないトルコとの戦車エンジン共同開発の真実(上)――トルコの狙いは何か?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013112500006.html
日経が伝えないトルコとの戦車エンジン共同開発の真実(下)――日本がパートナーを組むべき国はどこか?

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http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013110100004.html?iref=webronza



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