安井かずみがいた時代 理想のカップル?
イスタンブールに来てから読み始めたのですが、今年これまで読んだ本では一番面白かった本です。
安井かずみと彼女と結婚した加藤和彦について関係者の証言をまとめた本で、60年代以降の日本の歌謡史や音楽史の楽屋裏を見るような気がしました。
しかも音楽や芸能、ファッションなどの世界で以外な人間と意外な人間のつながりも分かって面白かったです。何かこう、歴史書を読んだような気になりました。
ぼくは子供の頃から歌謡曲を聴かない人間でした。対して中学、高校時代はフォーク・クルセーダーズはじめ70年代フォーク(無論リアルタイムで聞いていたわけではありません。ただし四畳半フォークは嫌い)という子供だったので、加藤和彦には興味があったのですが、安井かずみは加藤和彦の本などを通してあれこれ知った感じです。
安井かずみという人は女の夢を体現したような人でした。
学校はフェリスの出身で英語もフランス語もできて、学生時代に訳詞から初めてあっという間にスター作詞家になって、欧米への旅行は常にファーストクラス、現地のセレブに全く臆しない。美人でファッションや文化、食べ物までの非常に詳しい。60年代にこんな女性が実在したこと自体が驚きのような存在です。
何しろ日本はまだ途上国、1ポンドが800円もした時代で、外貨の持ち出しにも制限がありました。
まだビフテキやパイナップルの缶詰がごちそうの時代で、パスタもビザも殆どの日本人が食べたことが無かった時代です。
その後彼女は加藤和彦と結婚し、メディアからも「理想のカップル」と持て囃されました。彼らの生活はゴージャスで非日常そのもので、全く生活感が無かった。ですが日常を非日常的に生きることは非常にストレスを感じていたのではなかったでしょうか。
本書ではその「理想のカップル」の表裏を様々な関係者が証言しているわけですが、出色は吉田拓郎の証言です。
彼ら夫婦の生活は欧米のリッチな人たちのライフスタイルそのものでした。ですが英語でリッチというのはは
働かなくても喰っていける人たち、いわゆる銀のスプーンを咥えて生まれてきたような人たちです。毎・フェア・レディーのヒギンズ教授のように、仕事は趣味でやっているような人たちです。
ですが安井・加藤夫妻は自分たちの稼ぎで贅沢をしていたわけです。そこには経済的なことだけではなく、常に「理想の夫婦、ライフスタイル」を貫くためのいろいろと努力や無理があったようにも思えます。やはり欧米に追いつけ、負けるな的なところがあり、肩に力が入っていたのではないでしょうか。
何しろ60年代なんてポンドが800円もした時代です。日本は途上国でした。そんな時代に欧米のリッチと張り合うのは大変だったでしょう。
まあ麻生太郎のように生まれたときからボンボンで、英国風生活、ベットに入るとき以外は靴を履いて生活している人は別でしょうけど。
大藪春彦はかつて自分の作ったヒーローと張り合って肉を何キロも食べて、ウイスキーで流し込むような生活をして体を壊しましたが、なにかこの夫婦の生活は同じような印象を受けました。
彼らが本当に幸せだった否かは本人たちにしか分からないでしょう(もしかすると本人たちにも分からなかったのかもしれません)。
昭和という時代を知るにはいい本です。また男女の関係、人間の幸せについてなどいろいろと考えさせされる本でした。
惜しむらくは加藤和彦の友人で、元フォーク・クルセーダーズのメンバーだった北山修(現精神科医)の証言が入っていないことです。おそらく著者は北山修にコンタクトはしたのでしょう。ですが、加藤和彦は彼にとっては患者でもあったわけで、患者のプライバシーの保護とか、死んでしまった人間のことを生きている人間があこれいうべきではないとか理由があって断ったのではないか思います。
サラリーマン時代、また80年代だったと思いますが、一度だけ加藤和彦を目撃したことがあります。六本木交差点の横断歩道を颯爽と横切っていました。今もあの姿が目に浮かびます。







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