筑波大学中川八洋教授、異議あり その①
月刊「正論」三月、四月号に、に中川八洋筑波大教授の「これでは自衛隊解体ではないか 迷彩服を着せた『新・防衛大綱』の無責任」という論文が掲載された。
文中には同意できる見解も多々あるのだが、全体としてぼくにはこの論文がかなりファナティックに思えた。特に、氏が今だ我が国の最大の脅威ロシアであると主張していることにある。
現在、我が国の脅威としてより現実味があるのが北朝鮮、中国と思っている人が多いだろう。
ぼくの見解で言えば最大の脅威は北朝鮮、中国である。ぼくはこの二カ国に関する問題は不可分であると考えている。これは過去の拙著、ブログをみていただければおわかりになると思う。
世の中、全員の意見が一致を見ることが無いのが常である。故に議論が起こる。これは歓迎すべき事である。しかしながらそれは感情論やイデオロギーに流されることなく、事実や客観的なデータに基づいたものであるべきである。
だが、この論文において事実を誤認ないし、歪めている部分が多い。またかなりエモーショナルな形容に違和感を感じる。
まず四月号の下編の方からみていこう。
ぼくも防衛庁の内局の官僚達には問題があるとは思うが、同じ公務員たる国立大学の教授がいきなり「防衛庁の赤い官僚達が」などと扇動的な物言いをするのは問題だろう。
氏の自衛隊法の問題点、特に臨検や拿捕ができないなどの点はそれほど違和感がないのだが、海自が原潜を持たないのは「社会党、共産党、朝日新聞らの『原潜反対キャンペーン』に政府が恐れをなし~(中略)~タイミングを逸したからである」というのには頷けない。
因みにこの節のタイトルが「原子力潜水艦なきを『海軍力』と妄想する防衛庁」である。
ぼくも政策オプションとして原潜保有、核兵器保有は排除すべきではないとは思うが、だからといって我が国にとって原潜を保有することが現在の国益にはならないと考えている。
現在すでにインド、ブラジルなどは原潜の保有を検討している。報道資料などの情報だけではなく、ぼくは実際にこれらの国を訪れ、軍関係者からも直接そのような意見聞いている。世界の海軍、特に運用能力の低い海軍が原潜をもてば、事故や座礁が頻発し、海洋汚染の原因となるだろう。実際ソ連、ロシアの原潜は多数の事故起こし、何度も大騒ぎになっている。
恐らく近い将来「海中を進む原子炉」の問題がクローズアップされることになるだろう。そのとき原潜を保有していない方が有利である。
また、現在AIP(大気独立型機関)を搭載した通常型潜水艦の建造が各国で進んでいる。これらは、まだ技術的問題が全て解決されているわけではないが、潜行能力は格段に向上し、ライフサイクルコストも原潜よりもかなり低く抑えられるなどメリットが多い。また通常型潜水艦は一般に原潜より静粛性にすぐれている。
海自はスウェーデンから導入したスターリングエンジンを搭載した新型潜水艦(SS16)新型通常型潜水艦の建造を進めている。
今年就航予定のイタリアの最新鋭潜水艦「サルバトーレ・トダーロ」は燃料電池のみで二週間の連続航行が可能である。つまり今後、通常型潜水艦の性能は格段に向上すると考えるべきだろう。
氏のいうように「原潜を持たないのが海軍ではない」のであれば、潜水艦建造能力をもつスウェーデン、ドイツ、オランダ、イタリアなどの海軍も海軍ではない、というとになる。
氏はロシア潜水艦隊の脅威を説き「ロシアが日本周辺に配備している大型潜水艦の八隻(予備を含む)の原子力潜水艦は全て二八ノット以上で航行し、潜行時間は無限です。日本のは二〇ノット程度のスピードしかでない、潜行八時間ごと海上からの吸気を要する小型ディーゼル潜水艦です。このため、日本の潜水艦は一七隻と数は多いのですが、有事の際の露日間パワーバランスは百対ゼロで、日本側には全く戦力がないとみなしておかねばなりません」と述べている。
まず日露の隻数(攻撃型潜水艦のみを対象としている)が、表6に列挙されている。これにはロシア海軍が予備を含み、原潜八隻、通常型三隻であり、海自は通常型潜水艦17隻とある。
だが、海自の現役潜水艦は17隻とある。だが実際は16隻であり、一隻は教育用である。因みに次期中期防では旧式化する教育用潜水艦としてもう一隻増やす。
教育用とは言いつつも、これは容易に実戦に転用が可能である。つまり、近い将来も海自の潜水艦16隻体制、予備を入れれば18隻体制となる。
我が国は二社の造船所の潜水艦建造設備を維持するために、艦齢16年を経た潜水艦を教育用に転用、ないし廃棄している。政府の方針で転売できませんからな。
つまり、海自の現役潜水艦の艦齢は世界で最も若く保たれている。世界の海軍でこんな贅沢な海軍はない。
また「潜行八時間ごと海上からの吸気を要する」とあるが、海中での航行時間は速度によって変わってくるので一概に八時間とは言えない。さらに「小型ディーゼル潜水艦です」とあるが、とんでもない。
海自の潜水艦は世界の潜水艦の中でも大型の部類である。しかも年々排水量は増大している。現在最新の「おやしお」級は水中排水量3500トン、その前の型の「はるしお」級は水中排水量3200トン、次期16SSは水中排水量4200トンである。
ドイツが公試中の「U-31」は水中排水量1830トン、同じく現用の「212A」型は水中排水量1830トン、オーストラリアの「コリンズ」級は水中排水量3350トン、北欧三カ国が共同開発、デンマーク海軍が09年から就航を目指しているヴァイキング」級は水中排水量1650トン、先述のイタリアの「サルバトーレ・トダーロ」は水中排水量1830トン、オランダの「ワレス」級は水中排水量2800トン、ロシアの「キロ」級は水中排水量3076トン、同じくロシアが現在建造中の「サンクトペテルブルグ」級の水中排水量は2650トン。
むしろ海自潜水艦は通常潜水艦では大型であるのが分かるだろう。16隻という定数が決まっているから、排水量が大きくなればなるほど、すなわち予算も大きくなり、天下りの人数が増えるのではないか、だから大型化しているではと勘ぐっているほどである。
海自はどのような将来の戦場の想定を、またどのような運用思想、構想をもっているかを納税者に説明もしない、「沈黙の艦隊」となっているのである。基礎的な情報すら公開されなくてはジャーナリズムも世論も議論のしようがない。
また「オスカーII級原潜は、潜行排水量(水中排水量:筆者注)で1万八千トン(正確には18300トン:筆者注)を越え、日本最大の『親潮』(正しくは「おやしお」:筆者注)級三千トン(正確には3200トン:筆者注)の六倍という超大型、その分兵装が格段に異なる。~中略~松井秀喜選手と小学生を比較してもナンセンスであるが」と続く。
一般に原子力潜水艦は原子炉の搭載、運用思想から通常潜水艦より排水量が大きくなる傾向がある。このため原潜と通常型潜水艦を単純に排水量で比べるのは無理がある。
世界の通常動力潜水艦の水中速度は概ね20ノットであるから、海自の潜水艦の水中速度が約20ノットというのが他国より劣っているわけではない。表6にあるようにむしろオスカー級の水中速度は17ノットと低い(公表値を信じればであるが)。
更に氏は、『白書』は国民を騙すべく「合計隻数」と「合計トン数」に話をはぐらかす汚い手口の情報操作であると、のべているが、氏は予算不足の煽りをうけてロシア太平洋艦隊の稼働率の低いことには触れていない。また乗組員の連度、船体の整備状態、稼働率、艦齢にも言及していないのは公平さに欠けるのではないか。
因みに最初のオスカーIIの就役は87年、最新の艦でも97年である。アクラ級は最初の艦が90年就役、キロ級は最初の艦が80年に就役、最新のものでも94年、即ち10年前の就役である。
ウラジオストックで多くのロシア太平洋艦隊の艦艇は赤錆が浮いてまま、係留されているのは周知の事実である。ぼくはだからロシアを侮ってもよいというつもりはないが、事実は直視するべだろう。
しかも、我が国は対潜哨戒機P3Cをこの狭い海域で80機も運用している。これまた他国にこのように多数のしかも高性能の対潜哨戒機を運用している国はない(しかもP3Cの電子機材は絶えず更新されている)。
また海自の対潜作戦能力は定評あるとことで米海軍も一目おくところである。しかもロシア艦隊に比べて艦艇、機材も新しく、乗員の練度も高い。
更に加えるならばここで氏が同盟国米海軍を比較対象の要素に入れないのも面妖である。海自は米海軍の艦艇による支援だけではなく、潜水艦探査システム、ソーサスや監視衛星の情報などによる情報も得ることができるという強みがある。戦争は潜水艦や戦車などのハードウェアのみで戦うものではない。
因みに同盟国である米海軍の保有する潜水艦は攻撃型、ミサイル搭載型問わず全て原潜である。
文中には同意できる見解も多々あるのだが、全体としてぼくにはこの論文がかなりファナティックに思えた。特に、氏が今だ我が国の最大の脅威ロシアであると主張していることにある。
現在、我が国の脅威としてより現実味があるのが北朝鮮、中国と思っている人が多いだろう。
ぼくの見解で言えば最大の脅威は北朝鮮、中国である。ぼくはこの二カ国に関する問題は不可分であると考えている。これは過去の拙著、ブログをみていただければおわかりになると思う。
世の中、全員の意見が一致を見ることが無いのが常である。故に議論が起こる。これは歓迎すべき事である。しかしながらそれは感情論やイデオロギーに流されることなく、事実や客観的なデータに基づいたものであるべきである。
だが、この論文において事実を誤認ないし、歪めている部分が多い。またかなりエモーショナルな形容に違和感を感じる。
まず四月号の下編の方からみていこう。
ぼくも防衛庁の内局の官僚達には問題があるとは思うが、同じ公務員たる国立大学の教授がいきなり「防衛庁の赤い官僚達が」などと扇動的な物言いをするのは問題だろう。
氏の自衛隊法の問題点、特に臨検や拿捕ができないなどの点はそれほど違和感がないのだが、海自が原潜を持たないのは「社会党、共産党、朝日新聞らの『原潜反対キャンペーン』に政府が恐れをなし~(中略)~タイミングを逸したからである」というのには頷けない。
因みにこの節のタイトルが「原子力潜水艦なきを『海軍力』と妄想する防衛庁」である。
ぼくも政策オプションとして原潜保有、核兵器保有は排除すべきではないとは思うが、だからといって我が国にとって原潜を保有することが現在の国益にはならないと考えている。
現在すでにインド、ブラジルなどは原潜の保有を検討している。報道資料などの情報だけではなく、ぼくは実際にこれらの国を訪れ、軍関係者からも直接そのような意見聞いている。世界の海軍、特に運用能力の低い海軍が原潜をもてば、事故や座礁が頻発し、海洋汚染の原因となるだろう。実際ソ連、ロシアの原潜は多数の事故起こし、何度も大騒ぎになっている。
恐らく近い将来「海中を進む原子炉」の問題がクローズアップされることになるだろう。そのとき原潜を保有していない方が有利である。
また、現在AIP(大気独立型機関)を搭載した通常型潜水艦の建造が各国で進んでいる。これらは、まだ技術的問題が全て解決されているわけではないが、潜行能力は格段に向上し、ライフサイクルコストも原潜よりもかなり低く抑えられるなどメリットが多い。また通常型潜水艦は一般に原潜より静粛性にすぐれている。
海自はスウェーデンから導入したスターリングエンジンを搭載した新型潜水艦(SS16)新型通常型潜水艦の建造を進めている。
今年就航予定のイタリアの最新鋭潜水艦「サルバトーレ・トダーロ」は燃料電池のみで二週間の連続航行が可能である。つまり今後、通常型潜水艦の性能は格段に向上すると考えるべきだろう。
氏のいうように「原潜を持たないのが海軍ではない」のであれば、潜水艦建造能力をもつスウェーデン、ドイツ、オランダ、イタリアなどの海軍も海軍ではない、というとになる。
氏はロシア潜水艦隊の脅威を説き「ロシアが日本周辺に配備している大型潜水艦の八隻(予備を含む)の原子力潜水艦は全て二八ノット以上で航行し、潜行時間は無限です。日本のは二〇ノット程度のスピードしかでない、潜行八時間ごと海上からの吸気を要する小型ディーゼル潜水艦です。このため、日本の潜水艦は一七隻と数は多いのですが、有事の際の露日間パワーバランスは百対ゼロで、日本側には全く戦力がないとみなしておかねばなりません」と述べている。
まず日露の隻数(攻撃型潜水艦のみを対象としている)が、表6に列挙されている。これにはロシア海軍が予備を含み、原潜八隻、通常型三隻であり、海自は通常型潜水艦17隻とある。
だが、海自の現役潜水艦は17隻とある。だが実際は16隻であり、一隻は教育用である。因みに次期中期防では旧式化する教育用潜水艦としてもう一隻増やす。
教育用とは言いつつも、これは容易に実戦に転用が可能である。つまり、近い将来も海自の潜水艦16隻体制、予備を入れれば18隻体制となる。
我が国は二社の造船所の潜水艦建造設備を維持するために、艦齢16年を経た潜水艦を教育用に転用、ないし廃棄している。政府の方針で転売できませんからな。
つまり、海自の現役潜水艦の艦齢は世界で最も若く保たれている。世界の海軍でこんな贅沢な海軍はない。
また「潜行八時間ごと海上からの吸気を要する」とあるが、海中での航行時間は速度によって変わってくるので一概に八時間とは言えない。さらに「小型ディーゼル潜水艦です」とあるが、とんでもない。
海自の潜水艦は世界の潜水艦の中でも大型の部類である。しかも年々排水量は増大している。現在最新の「おやしお」級は水中排水量3500トン、その前の型の「はるしお」級は水中排水量3200トン、次期16SSは水中排水量4200トンである。
ドイツが公試中の「U-31」は水中排水量1830トン、同じく現用の「212A」型は水中排水量1830トン、オーストラリアの「コリンズ」級は水中排水量3350トン、北欧三カ国が共同開発、デンマーク海軍が09年から就航を目指しているヴァイキング」級は水中排水量1650トン、先述のイタリアの「サルバトーレ・トダーロ」は水中排水量1830トン、オランダの「ワレス」級は水中排水量2800トン、ロシアの「キロ」級は水中排水量3076トン、同じくロシアが現在建造中の「サンクトペテルブルグ」級の水中排水量は2650トン。
むしろ海自潜水艦は通常潜水艦では大型であるのが分かるだろう。16隻という定数が決まっているから、排水量が大きくなればなるほど、すなわち予算も大きくなり、天下りの人数が増えるのではないか、だから大型化しているではと勘ぐっているほどである。
海自はどのような将来の戦場の想定を、またどのような運用思想、構想をもっているかを納税者に説明もしない、「沈黙の艦隊」となっているのである。基礎的な情報すら公開されなくてはジャーナリズムも世論も議論のしようがない。
また「オスカーII級原潜は、潜行排水量(水中排水量:筆者注)で1万八千トン(正確には18300トン:筆者注)を越え、日本最大の『親潮』(正しくは「おやしお」:筆者注)級三千トン(正確には3200トン:筆者注)の六倍という超大型、その分兵装が格段に異なる。~中略~松井秀喜選手と小学生を比較してもナンセンスであるが」と続く。
一般に原子力潜水艦は原子炉の搭載、運用思想から通常潜水艦より排水量が大きくなる傾向がある。このため原潜と通常型潜水艦を単純に排水量で比べるのは無理がある。
世界の通常動力潜水艦の水中速度は概ね20ノットであるから、海自の潜水艦の水中速度が約20ノットというのが他国より劣っているわけではない。表6にあるようにむしろオスカー級の水中速度は17ノットと低い(公表値を信じればであるが)。
更に氏は、『白書』は国民を騙すべく「合計隻数」と「合計トン数」に話をはぐらかす汚い手口の情報操作であると、のべているが、氏は予算不足の煽りをうけてロシア太平洋艦隊の稼働率の低いことには触れていない。また乗組員の連度、船体の整備状態、稼働率、艦齢にも言及していないのは公平さに欠けるのではないか。
因みに最初のオスカーIIの就役は87年、最新の艦でも97年である。アクラ級は最初の艦が90年就役、キロ級は最初の艦が80年に就役、最新のものでも94年、即ち10年前の就役である。
ウラジオストックで多くのロシア太平洋艦隊の艦艇は赤錆が浮いてまま、係留されているのは周知の事実である。ぼくはだからロシアを侮ってもよいというつもりはないが、事実は直視するべだろう。
しかも、我が国は対潜哨戒機P3Cをこの狭い海域で80機も運用している。これまた他国にこのように多数のしかも高性能の対潜哨戒機を運用している国はない(しかもP3Cの電子機材は絶えず更新されている)。
また海自の対潜作戦能力は定評あるとことで米海軍も一目おくところである。しかもロシア艦隊に比べて艦艇、機材も新しく、乗員の練度も高い。
更に加えるならばここで氏が同盟国米海軍を比較対象の要素に入れないのも面妖である。海自は米海軍の艦艇による支援だけではなく、潜水艦探査システム、ソーサスや監視衛星の情報などによる情報も得ることができるという強みがある。戦争は潜水艦や戦車などのハードウェアのみで戦うものではない。
因みに同盟国である米海軍の保有する潜水艦は攻撃型、ミサイル搭載型問わず全て原潜である。
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