ノンフィクションの隘路



ノンフィクションというジャンルの書物が必ずしも「事実」を伝えるわけではない。

確かにノンフィクション作家は膨大な資料を読み込み、多くの関係者に取材を行って、膨大なメモを作って、それを書籍にするわけです。
それもスタッフを雇って、合宿を行って文献を読んで知識を共有したりします。
それが専門分野でやっているならば問題ないのですが、自分の知らない分野に落下傘降下してそれをやる場合、勘違いも多いのが実態です。

世間では「知の巨人」と崇められている立花隆氏がその典型です。彼は自著「ぼくはこんな本を読んできた」で、その分野の先端論文を集中的にクソ勉強すれば、その分野の権威と同等の見識が得られる、みたいなことを書いているわけです。

これがとんでもない間違いです。

まず、その分野に長く関わっていてこそ、わかってくる暗黙知や、見識というものがあります。つまり感覚的にわかるものがあるわけです。
その分野の人間にしてみれば言わずもがなな、暗黙知を理解できないことが多い。

敢えて申し上げれば、その分野に疎いノンフィクション作家は例えばパリ行ったことがないがパリに関する膨大な資料や地図を頭に叩きこみ、自分はパリに関してなんでも知っていると豪語するわけです。ですが、現地で実感できる感覚や書物に載っていない情報、パリに住んでいる人間なら誰も知っている常識を知らなかったりします。


ところがガリ勉で知識だけを押し込んだだけではその「土地勘」みたいなものが、身につきません。
例えば立花隆氏が日本の防衛に関して書いても、先端の安全保障論文などを読み漁ることでしょう。ですがそれは首から上の知識でしかない。実際問題は下半身にあります。

例えば安全保障の世界的権威が書いている論文を読んでも、護衛艦に医官がのっていないとか、ファースト・エイド・キットに止血帯と包帯が各1しか入っていなかった、つまり実戦を想定していない、ということです。こういうことは自衛隊に広報を通して取材しても分からないし、安全保障の権威の論文にも書いていません。彼らは自衛隊を普通の軍隊と言う前提で書いています。4人乗りの小型装甲車を主力APCに使っていることも把握していません。
また軍隊は問題にならないようなことで自衛隊は一般法で縛られていますが、それもしらないでしょう。ですから自衛隊の実力を実際以上に高く見積もっています。
ですから、ぼくが外国の軍人、国防省、メーカーの人間に実態を話すとたいへん驚かれます。

権威あるシンクタンクの著名なアナリストの「論文」は実は軍需企業やロビイストなどのサポートが多数あるのが事実です。それを差し引いて考えないといけないわけです。主流の「著名な論文」にはその傾向が強いわけです。かつての軍事における革命に関するものなどその好例です。そのようなトレンドを作って儲かる会社があるわけです。それは差昨今のカーボンフリーなどでも同様です。
また政府のレポートもバイアスがかかっていることが多々あります。政府やその機関が自分たちに不利な報告書を積極的に出すわけがありません。例えば冷戦中のCIAのレポートはソ連の脅威をかなり過大に見積もっていました。脅威が低ければ自分たちの組織の予算が減ってしまうからです。

そういうその業界の「大人の事情」を加味して判断せず、その分野の「権威」のレポートを鵜呑みにすれば当然現実が見えてきません。

また軍事について書くならば、外交、経済、政治、科学技術など業際的な知識も必要であり、軍事だけをクソ勉強しても勘所は得られません。

無論ノンフィクションの手法が悪いとは言いません。ですが、自分の専門や得意分野でもなく、長い期間ウオッチしてきた分野でもないのであれば、自分は知らないということを作家は自覚したうえで作品を書くべきです。
ですが「大家」になるほど、ちょっとその分野を齧っただけであたかも自分が専門分野のエキスパートのごとく思い込みがちです。最近では池上彰氏がそうでしょう。対象分野を広げすぎ、アウトプットも多すぎてかつてのようなキレがありません。

立花隆氏の例でいえば、「酒鬼薔薇聖斗事件」では犯人は30代のインテリと断言していました。ところが実際は14歳の厨房でした。
「自分が専門家」というフィクションをノンフィクションと思い込むと現実を見誤まります。


■本日の市ヶ谷の噂■
今年の第1空挺団の空挺降下はじめは一般客オフリミットだったが、実は特殊作戦群が登場し、UH-60からミニガンを射撃した。これは岸田総理が参加するためにわざわざもうけたサプライズだったが、所要で総理が来なくなって不発。だが事なかれ主義が横行する陸幕広報室ははこの撮影を一切するな、撮影した大変なことになるぞとメディアを恫喝。憲法の禁じる検閲にある可能性もあり、との噂。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(上)
https://japan-indepth.jp/?p=63876
10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(中)
https://japan-indepth.jp/?p=63884
10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(下)
https://japan-indepth.jp/?p=63896


堀口英利さんへの公開質問状まとめ~101まで
https://kiyotani.at.webry.info/202201/article_9.html













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この記事へのコメント

やれやれ
2022年01月20日 12:38

市ヶ谷の噂、マジですか?特殊作戦群が来ていたとは。
ネットの話だと1週間ほど前の平日に行われた様ですが一般公開では無いので内容も特別だったのですね。
それにしてもマスコミは呼んでいるだろうしヤバい写真撮るなと言われてもね…見せたくないなら出さなきゃ良いのに。
あと外国の大使や駐在武官も呼ぶのですが今回どうだったのかなと。ヤバいものなら見せちゃだめでしょう。
正直機密レベル低いと思うのですが。
やれやれ
2022年01月20日 13:02
個人的意見ですが、専門家は専門家なりの切り口で、
そうでない人はそうでない人の切り口で書いていくのが良いのかなと思います。
仰る通り専門家でないと分からない空気などは素人には伺い知れないかも知れないし、
逆に専門バカだと見落とす、一般的な感覚からずれた意見もあるでしょうし。
取材にしてもかなり時間を掛けて身につければ専門家顔負けになるやも知れません。
自分がどのレベルか知った上での範囲で書く分には良いのかと。
ただ専門家も誰かに忖度して本当の事を書かない、書けないなどあるとノンフィクションって何なのになってしまうし(防衛省に忖度した記者クラブや雑誌社などは良い例でしょう)どの方向にもバイアスが掛からない書き物は難しいでしょうね。
自分の受けた印象もあるだろうし。
そこまで考えて書ける人がどれだけいるのか気になりますね。
Goodman80
2022年01月20日 13:16
陸自パラシュート部隊 年始恒例降下訓練
https://www.youtube.com/watch?v=s1hxzLuLhT8
てな物をテレ東BIZでやってました。軍事訓練なのに普通のマスクって何の意味が有るんだろう。まあ、訓練がお仕事の自衛隊なので問題は無いんだろうが。年始からやってます感が満載。ネトウヨは感涙で万歳(北朝鮮か、でも彼らはお仕事なんだが)。
KU
2022年01月20日 13:23
>>>市ヶ谷の噂

あんな北欧生まれな8輪装甲車が、未だに正式に御披露目されないのも同じような理由でせうか?(^_^;)))。陸自ってホント、何でもかんでも隠したがるよなあ...。他所なら特殊部隊といえど、それなりに訓練の様子を公開していますもんねえ。


>そう言えば(?)、先月号からの防技ジャーナルでアパッチ調達前(97年~2000年)にOH-1ベースの国産AH -Xを検討した話があったなと

https://mobile.twitter.com/yankeesierra00/status/1483793988390105089

後のロングボウ調達のグダグダぶりを考えると、この機体を開発する価値もあったように思えます(>_<)。しかも、未だにコブラが現役なんですもんね...。
やれやれ
2022年01月20日 19:31
KUさん、
私はアパッチで良かったと思います。ただまさか古いブロックを選ぶとは思わなかったし高額だからと調達を打ち切るとも当時は思っていませんでした。スバルにライセンスさせていましたからね。高額なまま予定通りやるんだろうな、と。
と言うか百機も作らないのだからライセンスでは無く輸入にするべきだとは思っていました。
まさか台湾以下に成り下がるとは予想の範囲外ですよ。
OH1進化型の対戦車ヘリは悪手です。結局低性能の使えないものを配備か失敗してドンガラの山が格納庫の肥やしになる未来しか見えませんでしたから。
そりゃ出来そうなら期待もしますけどね。
なんせ三菱のエンジンがアレなんで、高出力タイプの研究も上手く行ってませんでしたし未だに成果無しの上にエンジンのやらかしを見ても品質が分かる通りです。最終的に800馬力のエンジンを1200馬力位に引き上げるんでしたっけ。
UH60のエンジンが1600馬力以上で2000馬力以上のヘリ用エンジンすら世の中にはあるのに千馬力すら超えられないでは武装や装甲で重くなった機体を軽々とは飛ばせないでしょう。
絵に描いた餅で終わったでしょうね。
国産エンジンに拘らなければもしかしたらという可能性は有ったかも?

それにしても解せないのはそんな低レベルなOH1のエンジンの写真すら航空祭で満足に撮らせてくれないんですよ。むしろ技術の低さを隠蔽したいのか?と訝る次第。
ひゃっはー
2022年01月20日 20:42
自衛隊も命令なんかで動いてませんもの。忖度で動いてます。本ばかり読んでると、こういうことには気が付かないでしょうね。
KU
2022年01月20日 21:21
>自衛隊練習ヘリどうなる?米ヘリコプター企業エンストロムが破産 会社清算へ

https://trafficnews.jp/post/114673

今日の昼間にTDARのツイートで見かけて、え?となりました。TH- 480というと、あんな国産小銃の調達に、四半世紀も掛けた組織とは思えないくらいのハイスピードで必要数を揃えた、という印象が強いですね(^_^;)))。たった3年ですもんね、30機を買い揃えたのは。陸自もやれば出来るぢゃんと、感心した覚えがありますもん。けど、以後は元の木阿弥orz。
偽陸士
2022年01月21日 08:52
KU様。

>後のロングボウ調達のグダグダぶりを考えると、この機体を開発する価値もあったように思えます(>_<)。しかも、未だにコブラが現役なんですもんね...。

いやぁ。

国産攻撃ヘリも中身は外国製で、部品もズルズルと調達して事故で飛行停止か部品枯渇になるだけです。

それならば海兵隊から中古のAH-1W(但し予備部品は新品で)を買うか、南アのローイファルクを買うのがあの当時だと堅実かなと。
やれやれ
2022年01月21日 09:11
KUさん、
エンストロム解散ですか?驚きました。
小型のガスタービンヘリだとこれとロビンソンのR66位しか
知りませんけど小型故に個人も含めてそこそこ需要があるかと思ったのですが経営は厳しいですね。小型ヘリ分野の中では少々安いからと言うだけでは儲かるほど売れないのかな...残念。
やれやれ
2022年01月21日 09:20
そういえばトンガへの支援には予想通りC2では無く小牧のC130使っていますね。
こういう時こそC2を使って売り込み材料にすれば良いのにと思ってしまいますが。
2022年01月21日 10:28
氏の記事を読めば読む程、日本の現状に腸が煮えくり返りそうです。政府関係者やメディアの大部分も、この手の類いでしょう。
自分もまず手始めに記者クラブを廃止させるべきと思いますが、どうすればいいのでしょうか。
キヨタニ
2022年01月21日 12:13
なかなか難しいことですが、広告主に国民の知る権利を奪っている記者クラブ媒体に広告を出すのはやめるべきでは
と抗議して、その内容や記者クラブ批判をSNSで広めるとか地元の政治家にこの問題について問うのも手ではないかと思います。いずれにしても根気が必要です。

>さん
>
>氏の記事を読めば読む程、日本の現状に腸が煮えくり返りそうです。政府関係者やメディアの大部分も、この手の類いでしょう。
>自分もまず手始めに記者クラブを廃止させるべきと思いますが、どうすればいいのでしょうか。
KU
2022年01月22日 07:38
>>>国産AH-X 

ぶっちゃけ、少しくらい夢を見させてくらさい!(>_<)。実用化されていれば実用化さえされていれば、もしかしてもしかすると、今頃は国産ステルス偵察戦闘ヘリ(大石さんの『新世紀日米大戦』に出てきたAH-2とか『第二次湾岸戦争』のMH-Xみたいな機体w)が爆誕していたかもしんない(汗)。


>ここ最近の陸自ヘリ
 AOH-1:談合で死亡
 UOH-1:同じく談合で...
 OH-1:エンジンを放置され、何年もの間も飛ばず(最近復帰
 AH-64:これからはデータリンク!と導入するもどこにも繋がらないデータリンク、高い値段、そして裁判へ
 New!!TH-480B:メーカーが倒産

https://mobile.twitter.com/objec1/status/1484175681080946695?cxt=HHwWjsDT8eP67JgpAAAA

>陸自「TH-480B買うで。安いんや」→ランニングコスト過多→ベルト切れそう怖いとPから不評→OH-6Dよりも非力→連絡飛行もできぬ→航空祭では空港から出ない演技できる(非力)→整備所要大→メーカー倒産→採用決めた人はもういない

https://mobile.twitter.com/m_takewaka/status/1484026962889015299?cxt=HHwWhoDQgZ-qqZgpAAAA

ロングボウの導入が決まったときは陸自スゲーと思いましたよ、私も(^_^;)))。けどねえ...まさか、ああまでグダグダになるとわ予想もしませんでしたが。ま、清谷さんが今まで何度も何度も指摘されてきたとおり、防衛省自衛隊に当事者意識もクソも何も無かっただけの話なのでしょうけどorz。あったのは、他所様と同じオモチャがほすい!という頭だけ...。ヲタな個人が夢想するのとは訳が違いますよね。
やれやれ
2022年01月23日 18:19
KUさん、
TH-480Bに決めた時には正直驚きましたけど同時にやるなあとも思ったものです。
後継にOH6の民間進化型MD500とかになるのかいなと思ったらまさかのエンストロムですからね。機材も整備も安くしたかったのかな、と。免許取るための練習機ですからね。
MD500だと小型攻撃ヘリ、観測ヘリも用意されている様ですががそこにはOH1がいますからね...
それとタービンヘリの安いのって多くないんですよね。
レシプロエンジンの方が安いですからね。
さてどうなることやら。
いっそスバルが製造権と販売権を買い取って(爆)。
ブロガー(志望)
2022年01月23日 19:26
お邪魔します。
 お言葉ですが、ノンフィクション云々というよりも「自分は何を知っているのか」という自覚があるか否かではないかと思われます。知れば知る程「視界」が広がりますが、それと同時に「未知の領域」もまた広がっていくのではないかと。
 戦時中に学生将校として徴用された山本七平はある場所に送り込まれましたが(まだ教育期間中)、そこには二個大隊分の施設しか無かったにも関わらず、それを「二個大隊」と言わず「一個連隊、但し一個大隊欠」と言っていたそうです。そういう経験があったので山本七平は旧軍の部隊数とかを見ても「どうせ欠、欠、欠ではないのか。」としか思えなかったそうで。後に戦地で古狸の人物に自滅以外に考えられない転進を「予言」され、後にそれが的中し、敗戦後に収容所で再開した際にその事を聞いたら、無表情で「偉い人でも最後はああなります。ノモンハンの時もそうでした。」と言われたそうです。戦地徴用の学生将校と「古狸」の違いでしょうか。そう思えば今の日本は「欠でない部分の方が少ない」のかも知れませんし、山本七平は「誰も知らない対米戦闘法」を「最大の欠」と言っていましたか、今の日本では国防・安全保障「そのもの」が「欠」なのかも知れません。