防衛産業の浮沈のカギ握るFX選定(前編)


日経ビジネスONLINEに掲載された記事が削除されているのでここで掲載しておきます。

防衛産業の浮沈のカギ握るFX選定(前編)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20111125/224283/?P=1
予算削減の影響で中小企業の“退場”が相次ぐ
清谷 信一  【プロフィール】バックナンバー
2011年11月30日(水)
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 日本の防衛産業は現在、極めて厳しい状況に置かれている。

 1989年度に1兆207億円あった装備調達予算は、2010年度には6837億円と、33パーセントも落ち込んだ。これは装備の高度化に伴う整備維持費の高騰、人件料食費の増加、燃料費の増加などが調達費を圧迫しているためだ(詳しくは「維持費、人件費、燃料費が、装備の調達を圧迫」を参照)。防衛省が防衛関連企業61社に対して行ったアンケートによると、2006年から2010年までの5年間で防衛装備品関連の企業の操業時間は約180万時間、率にして約7パーセント減少した。

 防衛産業というと、三菱重工や川崎重工業など大手をイメージされるかもしれない。だが、実態は多くの中小企業(従業員300名以下または資本金3億円以下の企業)から成り立っている。例えば90式戦車の生産には、主契約社の三菱重工の下に約1300社が関わった。うち7割を中小企業が占めている。同様にF-15戦闘機の生産には1500社が関わった。そのうち中小企業の比率は8割だ。イージス護衛艦では2200社、約8割である。

 装備調達費の削減は中小企業に深刻な影響を与えている。三菱重工など大手企業の防衛依存率は10パーセントを切っている。他の部門の利益で防衛事業の赤字を補填できるが、中小企業はそうはいかない。しかし、中小企業の場合、売り上げの数割を防衛に依存している企業が少なくないからだ。防衛需要の売り上げが全体の5割以上を占める企業が4分の1に上るという(朝雲ニュース)。防衛関連の売り上げが激減すれば、経営がたちいかなくなる企業も出てくる。防衛省向けの仕事は、大手にとってはサイドビジネスだが、中小企業にとって本業なのだ。

 2003年以降、戦闘機生産から、中小企業を中心に30社近くが“退場”している。同様に戦車や戦闘車輛の生産からは約35社、艦船生産からは26社が“退場”、あるいはその意思を表明している。“退場”と表したのは撤退した企業のほかに、事業がたちいかなくなって自主廃業・倒産した企業も含むからだ。

 これらの中小企業には代用が効かないオンリーワンの技術を持っている企業も少なくない。例えば明治ゴム化成が生産する10式戦車用のゴム部品は、同社以外では生産できない(「誰も語らなかった防衛産業」桜林美佐)。いくら大手主契約企業が生き残ろうと、防衛産業の基盤を支えている中小企業群が壊滅すれば、防衛産業自体が崩壊するのは言うまでもない。


陸上自衛隊の最新鋭の10式戦車。1000以上の企業が製造に関わっている。装甲車輛の調達数は激減しており、防衛依存度の高い下請け企業の経営は厳しい(撮影:清谷信一)
陸自が攻撃ヘリの生産契約を途中で打ち切り

 そんな状況の中、防衛省と防衛産業の間には埋めがたい溝が生まれつつある。それは防衛省が、このような防衛産業の困窮を放置してきた上に、組織防衛のために自分たちの失敗の尻拭いを企業側に押しつけるかのような振る舞いをしているからだ。同省は、防衛産業の所管官庁としての当事者意識に欠けている。

 陸上自衛隊(陸自)は2001年、米国製の攻撃ヘリAH-64Dアパッチを62機調達すると決定した。富士重工業がライセンス生産――多くのコンポーネントを国内で生産する――を行うこととなった。ところが、防衛省はわずか13機を調達したのみで、打ち切りを決定した(当初は10機で調達停止としたが、その後3機を追加発注した)。

このため富士重工側は、今後の機体生産で回収するはずだった約400億円――ラインの構築費やライセンス料など――の支払いを防衛省に求めた。だが、同省はこれを拒否した。富士重工は今後30年以上にわたって期待できた機体の製造、修理、近代化など数千億円の売り上げを失った。のみならず、数百億円の損失を出すことになった。このままでは、同社の経営陣は株主代表訴訟を起こされかねない。このため富士重工は防衛省を相手に民事訴訟を起こし、現在も係争中である。

 防衛省相手のビジネスの最大のメリットは、利益率は小さいが、一定の仕事量が確保でき、回収に不安がないことだった。だが、この一件でこのメリットに黄信号が灯った。これではメーカーも商社も、安心して防衛省と取り引きすることができない。このため防衛省は2008年度から、ラインの構築費やライセンス料など生産開始にかかる費用を「初度費」として初年度、あるいは数年中に支払うこととした。ただし、この変更は、メーカーにとって早期に初期投資を回収できるメリットがあるものの、「初度費さえ払えば、途中で調達を中止してもいいだろう」という防衛省の開き直りとも取れる。防衛省を相手とするビジネスのリスクに変わりはない。


戦闘機用偵察システムの開発でも違約金を請求

 諸外国の装備調達は、まず議会が調達数、調達期間、予算総額を承認する。その後、政府がメーカーと契約する(あるいは一定の期間、生産ロットごとに契約を行う)。国の事情で調達数を大幅に減らしたり、キャンセルしたりした場合、国がメーカーに対してペナルティを支払う。例えば英政府は、国防費を削減するため、哨戒機ニムロットMR4の調達を2010年にキャンセルした。この時、主契約社であるBAEシステム社に対して、かなり金額の違約金を支払っている。

 我が国の問題は、諸外国のような議会のチェックが働かないことだ。通常、装備の調達数や予算総額などの詳細を国会が了承をすることはない。文民たる政治家が調達計画を実質的に承認しないまま、防衛省・自衛隊が生産を決定する。先のアパッチのケースでは、陸自が62機を調達すると決定した。だが、その調達数も、総予算も国会の承認を得たわけではない。

 さらに2010年、空自は、東芝が開発に当たっていた偵察機用の偵察ポッドシステムの開発をキャンセルすると発表した。この偵察ポッドシステムは、旧式となったF-15J戦闘機に搭載して同機を偵察機に改変するもの。F-15J戦闘機を現用の偵察機RF-4の後継として使用できるようにし、専門の偵察部隊で使用する機種を更新するプロジェクトだ。

 防衛省は2007~09年度に、システムの試作を123億円で東芝と契約。また三菱重工と、F-15Jの機体改修について63億円で契約した。既に改修を終えている。防衛省は2011年2月に東芝との契約を解除し、システム施策費の支払いを拒否した。同社が所定の性能を達成できかったとの理由だ。さらに、違約金12億円と無駄となった機体改修費、合わせて75億円を東芝に請求する訴訟を検討している。これに対して東芝は契約代金のうち、93億円の支払いを求める訴えを東京地裁に起こしている。

 防衛省のキャンセルと要求する金額を合わせれば198億円になる。東芝の防衛省に対する売り上げは2010年度で186億円だ。防衛産業メーカーの利益はおおむね5パーセント程度である。しかも各企業の売り上げは下落傾向にある。東芝は今回の損失を埋めるために、20年以上はタダ働きする必要があるだろう。
なぜ不具合のある次期輸送機は調達を続けるのか?

 これは防衛省の身勝手というのが筆者の見方だ。開発は必ず成功するとは限らない。しかも防衛省自身が計画にGOサインを出し、各段階でチェックも入れている。責任の一端は防衛省にもある。企業は、ただでさえ利益が低いのに、違約金まで取られる。株主代表訴訟の対象にもなる。このようなことがまかり通れば、高性能、すなわち難易度の高い開発に挑戦する企業がいなくなってしまう。さらに、防衛産業から撤退する企業が増加するだろう。

 他方で、空自は2010度末、問題があるCX(次期輸送機)を川崎重工から受領している。強度が不十分なため、この機体の外側には補強のためのツギハギがあり(内部にはつっかえ棒がしてあったという情報もある)。一部のメディアは重量の超過も報じている(2011年3月9日付東京新聞電子版=リンクは既に無効)。しかも空自は2012年度の概算要求で、このCXのために約58億円の改修費用を要求している。つまり官側が改修費を負担していることになる。不具合が直っていないにもかかわらず、「性能が不十分」だった2010年の段階で、空自量産機2機を調達する予算を要求している。さらに2012年度も2機分の調達費を要求している。

 防衛省は通常、このようは「未完成品」を受領しない。まず出来上がった試作機を受領し、瑕疵や性能の不足がないかを検査する。ちなみに海上自衛隊(海自)は、新型哨戒機P-1が2011年9月の強度試験で問題があったとして、開発期間を2011年度中から2012年度中に変更した。2012年度の概算要求では調達費の計上を見送った。東芝にしてみれば「なんでCXだけは特別扱いなんだ」ということになる。裁判でこの点を突かれると防衛省はかなり不利になるだろう。

 筆者が取材した範囲では、多くの自衛隊OBや業界関係者が「空自は偵察システム自体が必要なくなったのだろう」と見る。偵察ポッドはレーダー、光学センサーを1つのポッドに統合したタイプが主流となりつつある。東芝が開発に当たっていた偵察機用の偵察ポッドシステムの仕様は既に時代遅れた。しかもFX(次期戦闘機)の本命であるF-35は高い偵察機能を有しているので、これと偵察用UAV(無人機)を組み合わせれば専門の偵察部隊は必要なくなる。海外では実際に、専門の偵察部隊を持たず、戦闘機に偵察ポッドを搭載して運用する空軍が増えてきている。

 「空自は偵察システム自体が必要なくなったのだろう」との見方を裏付ける状況証拠もある。RF-4のシステムは旧式で、リアルタイムで情報が把握できない。地上を撮影したフィルムを基地に持ち帰り現像する必要がある。東日本大震災では、RF-4偵察機のこの能力不足が問題となった。ところが空自は、東芝のシステムをキャンセルしたにもかかわらず、本年度の予算で、これに代わるリアルタイムの偵察システムの調査費すら要求していない。つまり東芝製の開発中止に伴う善後措置を取っていない。

 防衛省と防衛産業は長年、貸し借りをつくり合う慣れ合いの関係を続けてきた。例えば、本来なら防衛省が書くべき要求仕様書をメーカーに書かせたり、試作で予算がオーバーした場合、量産品を調達する際に超過分の経費を上乗せしたりしてきた。空自はこうした馴れ合いの関係を利用し、自分たちの都合で必要なくなった偵察システムの開発を打ち切った、と疑われても仕方あるまい。

 防衛産業側は売り上げが落ちて、余裕がなくなっている。防衛省には現状に対する危機感がない。装備調達予算の削減で苦しくなったやりくりを、これまでの不透明な関係をいいように利用していると言わざるを得ない。このような防衛省の態度は、防衛産業の間で強い不信を生んでいる。

 現在選定が進んでいるFX(次期戦闘機)の選定いかんによっては、企業が防衛産業から雪崩を打って撤退することになりかねない。

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この記事へのコメント

Goodman80
2021年03月11日 13:10
日本経済新聞の夕方のニュースで、2035年の配備を目指している次期戦闘機(F-X)について、川崎重工業とNECも参加すると伝えています。これにより従来の契約内容が大幅に変更されると思われます。東芝と富士通の事実上の排除等が考えられますが、防衛省のプライムとベンダーの扱いは余りにも酷過ぎます。此れから防衛関係企業は益々撤退を余儀なくされるでしょう。おいしい仕事は全て天下り先のプライム企業では、ベンダー企業はやっていけません。小松の様に見切りを付ける企業は益々増えて行くでしょう。
隊員はゴミ兵器に殺され、募集に応じる真面な人間は皆無となり、動かないゴミ兵器と真面に使えないゴミ隊員、ゴミ幹部が基地に残留する日も近いでしょう。
Masaya Hariu
2021年03月11日 18:50
空自が調達を予定していた東芝の偵察ポッドについては、空自が保有するほぼ全ての戦闘機に適合させておけばマシだったかもしれません。
何故少数だけ作って調達しようとしたのでしょうか?
当時の空幕の人達は頭のネジがぶっ飛んでるとしか思えません。
Goodman80
2021年03月14日 19:25
イスラエルは米空軍で不要となる旧式のF-15を狙っている様です。
Israel Could Be Waiting For Surplus U.S. Air Force F-15s Instead Of Buying New Advanced Eagles
https://www.thedrive.com/the-war-zone/39756/israels-puzzling-lack-of-new-advanced-f-15-eagle-orders-may-be-because-of-this
日本にこれだけの改造能力が有れば、此処まで米国につけ込まれるのは避けられたかもしれませんが、持たせないように米国の指導が有ったことも有るので仕方ないかもしれません。 
このレベルの国家がFXの新規開発とか国防予算の無駄遣いとしか思えません。米軍に考えないように洗脳されているとは言え、余りにも稚拙です。まあ、今の日本を占領しようとするアホな国家もいないから、安心しきっているでしょうが、これ以上の無駄遣いは止めて欲しいものです。
Goodman80
2021年03月15日 08:35
改修作業の初期費用は予定の3倍、日本が米国にF-15J改修コストの減額を要求
https://grandfleet.info/japan-related/japan-plans-to-request-us-to-reduce-f-15j-repair-costs/
相変わらず日本や台湾にはやりたい放題のアメリカ様ですね。費用対効果で最初から新型機を導入した方が、断然合理的だと思います。アメリカ様もその方が良いでしょう。大三菱様の改修では信頼できないですし、機体も相当草臥れているみたいですし。