処方箋1:総人件費の抑制が急務

日経ビジネスONLINEに掲載された記事が削除されているのでここで掲載しておきます。

処方箋1:総人件費の抑制が急務
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110420/219520/
災害担当地方公務員への道を開こう
清谷 信一 
2011年4月25日(月)

 これまで2回にわたって自衛隊が有事に必要な装備を調達できていないことを説明してきた。戦車や戦闘機など一部の正面装備はそろえているが、これだけでは有事に戦えない。最大の問題は、自衛隊が有事を想定して装備の調達や維持を行ってこなかったことにある。

 多くのメディアが現場の自衛官の献身的な働きを報道しているが、自衛隊のシステムとしての問題点を指摘するメディアはほとんどない。

 現場のガンバリズムだけでは、戦術的な勝利は得られても、戦略的な勝利を得ることはできない。現場のガンバリズムに期待して現状を放置するのは現場の隊員たちの努力を裏切る行為でもある。


まずは総人件費の抑制を

 では現在の装備の問題点をどう解決するか。一部の保守系評論家や政治家は、単に防衛予算を増やせと主張している。これはあまりに安直だ。現在の我が国に予算を増やす余裕はない。しかも今後、今度の震災の復興費用も重くのしかかってくるのだ。問題は予算の多寡ではない。防衛省や自衛隊の予算の使い方にある。仮に人間だけ増えて必要な装備も揃えなければ意味がない。与えられた予算枠をいかに合理的に使うか、知恵と工夫が必要である。

 まず必要なのは、固定費である人件費の総額を抑制することである。現在のトップヘビーの年齢構成を是正し、定数の4割強しかいない「士」クラスの増強を行う必要がある。人件費の高い40~50代の幹部(将官から3尉まで)や曹を減らして現場で活動する“兵隊”を増やす。これは有事の即応性を高めるためにも、ぜひとも必要だ。ちなみに年齢構成の是正は新「防衛大綱」も謳っている(関連記事http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101220/217645/)。

 「士」クラスが極端に少ないことは、将来、「曹」クラスにも悪影響が出る。「曹」は「士」から選別する。分母が少なければ「曹」クラスへの人材供給が細る。

 現状はリストラと称して、賃金の安い契約社員(「士」のこと)を大幅に削減している。その一方で、何倍も人件費が高い正社員(「曹・幹部」のこと)を増やしている。これで人件費が抑制できるはずがない。

 諸外国では、将校や下士官は一定年数のうちに昇進できないと軍を去る必要がある。同様に自衛隊でも、早期退職制度を取り入れるなどして、幹部や曹を30~40代で選別する必要がある。そのためのシステム作りが必要だ。

 本来なら予備役の制度が、この役割を果たす。だが、現行制度では、高級幹部を予備役に移すことができない。予備役たる予備自衛官は、医官などを除けば最上位の階級は二尉(中尉)止まりだからだ。これは自衛隊の人事上の欠陥だ。

 高級幹部の育成には10年単位の年月がかかる。その高級幹部の予備役がいないことは戦時にも不利だ。普通科の連隊長、空自のパイロット、海自の護衛艦の艦長、これらの人員の補充は難しい。

 現状では、現役が死傷した場合、その補充は極めて困難だ。自衛隊は「高級幹部は死傷しない」、あるいは「戦争が起こらない」と高をくくっているとしか思えない。予備役が少ないことは潜在敵国に先制奇襲の誘惑を与える要因になるので、抑止力の維持の観点からも望ましくない。

 防衛省は現在、幹部に対して早期退職を勧告するシステムを導入している。曹に対しては、俸給の減額と定年の延長をセットにした人事改革を検討している。これは非戦闘職種の隊員の身分を、より俸給が安い一般公務員に変える。その代わり、50~56歳となっている定年(将官は60歳、曹は53~54歳)も一般公務員並に延長する、というものだ。だが今後の議論いかんでは、幹部・曹の両方に対して、早期退職と一般公務員への身分転換を併用する可能性もある。


再就職支援策が必要

 早期退職や身分転換を実施する場合、再就職支援策を用意しなければならない。

 現在、景気が低迷し、企業が正社員の採用を控えるようになったために、「士」を辞めた自衛官が、正社員として民間企業に再就職できる可能性が低くなっている。だから自衛隊内の“正社員”である「曹」になることを希望する士が増えている。実際、これまではそうやって曹を増やしてきた。しかし、曹の数を今後削減するならば、士の再就職を支援するシステムを構築する必要がある。これを怠ると、士の募集が今後困難になる。制服組全体の士気も低下する。

 2012年度の防衛省概算要求では、士の再就職支援システムの構築が最大の焦点になるだろう。これが頓挫するならば、一層の困難を伴う、幹部や曹に関する人事改革を行うことは不可能だ。


退職自衛官を防災担当の地方公務員に

 筆者は以前から、退職した自衛官を地方公務員として採用すべきだと主張してきた。実際にここ10年ほど、退職した自衛官を雇用する自治体が増えている。特に防災担当者として採用するケースが多い。士ならば警察、消防など現業部門への転職はさほど難しくあるまい。地方公務員の採用において、士の経験者向けに一定の優先枠を設ける制度を検討してはどうか。再就職先が公地方自治体ならば、民間企業に再就職する場合に比べて、彼らを即応予備自衛官として招集することも、より容易にある。

 自衛隊で得た技術を民間で生かす道を開くことも重要だ。例えば現在、自衛隊で航空機の操縦や整備の資格を身につけても、民間企業で使うことができない。これらのスキルを民間企業で通用するように法改正すれば、人材の流動化が進むだろう。頭を使えば、再就職のための方策は少なくない。

 いったん自衛官になったら、全員が定年まで自衛隊に留まれるという現行システムを続けると、組織はトップヘビーとなり、平均年齢も上がらざるをえない。これは人件費の面からも戦闘集団という自衛隊の性格からも許容はできない。

 人材の流動性を確保し、人件費の抑制を図る必要がある。
防衛予算の大幅な増額が期待できない現在、装備の調達や維持を含めて、戦闘集団の機能を維持するためにも固定費である人件費の圧縮が必要だ。

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