谷本真由美@May_Roma の妄想 その2
在英の谷本真由美氏の『日本が世界一「貧しい」国である件について』(祥伝社)は、なんとも残念な本です。
谷本真由美さんのツイッター
https://twitter.com/May_Roma
谷本真由美さんのブログ
http://eigotoranoana.blog57.fc2.com/
谷本さんは日本の勤労者の労働時間が欧州と比べて長いといっています。統計的にそれは事実でしょう。ですが、統計に入っていない数字もあります。
例えばイタリアやフランスでは労働時間が短いが、給料が安い公務員がバイトしたりしています。学校の先生がウエイトレスとかしたりしています。
また失業保険をもらいながら闇でバイトをしたりしています。これはフランスではノワール・トラバーユ(黒い仕事)と呼ばれています。当然統計には入っていません。
谷本さんは失業率に関しては述べていません。今更言うまでもありませんが、欧州では失業率が日本よりもかなり高い。しかもレイオフは新入社員から行われます。また雇用保険など企業の負担が多いので、企業は正社員の採用には及び腰です。
ですから、イタリア、フランスなどでは若年層の失業率が長年高いままで、しかも近年の金融危機で更に深刻化しています。ギリシャなんぞ若年層の失業は6割近いです。
http://www.garbagenews.net/archives/2069335.html
欧州の若年層は就職の機会が非常に低いです。日本の非正規雇用よりも遙かに深刻です。
欧州で失業率が高い一つの原因は、労働者の質の悪さ、にあります。だったらもっと安価で熱心に働くところに工場を移そう、そうなります。事実なっています。
また日本人は欧州に比べて貯金(生命保険なども含む)率が高いという事情があります。これまた実際の可処分所得を少なくしている原因ですが、本来比較にはこのような事情も加え得るべきですが谷本さんは考慮しないようです。
(日本の) 「非正規雇用労働者の増加は、バブル期以上に『実質的な豊かさ』を感じられない人を増やしています」 (P39)
ところが90年代以後、日本の経済が一番堅実です。英米のように貧富の差が広がっているわけでもありません。こういう数字は谷本さんは見ないようです。
一部の金持ちが労働者を搾取し、高額な報酬をとる。それでも英米の労働者は幸せだ、そのように谷本さんは考えているのでしょうか。
谷本さんはオリンピックで不手際ばかりだったことを老大国の余裕としています。「この『人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし』という態度は、落ちぶれた故に悟りの境地にはいったという『イギリスという国の本質』ではないのか、と思うのです。何事も真剣にとらえず、笑いのセンスで対応する。すなわち、それは人生を楽しみ、些細なことは無視し、いつも人生の明るい面をみようという『イギリス的悟りがもたらした豊かさ』のように思えるのです」 (P45)
谷本さんはその前の43ページに高速道にヒビがが入りまくり落下の危機だったことが判明」と書いています。
これは「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」なのでしょうか。普通の感覚とは随分違います。
またその前のP41~42では警備会社が1万人もの警備員の発注を忘れてた話も紹介しています。これまた「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」なのでしょう。
英国は元来テロに敏感です。地下鉄やバスの中も含めて町中監視カメラだらけです。近年もイスラム系の爆弾テロがありましたが、オリンピックで爆弾が仕掛けれて多数の人間が死傷しても谷本さんは「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」と仰るのでしょうか。
また英国ではデモが暴動に変わることが多々あります。オリンピックでデモが暴動に変わったり、爆弾テロが起きた場合誘導する警備員が足りなければ、パニックになって不要な死傷者が出る可能性は極めて高くなります。
でも谷本さんはこれまた「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」というのでしょうか。
で、その後に谷本さんはボールドで「物やお金は朽ちるから、家族や時間、友人などを大切にしなくてはいけない、仕事は生活の最優先事項ではない」と結論づけています。
カネよりも自由が優先する、それなれば所得が低い非正規雇用でもいいということになりませんか?
失業者や生活保護でぶら下がれば働かずに、「豊か」に暮らせます。
日本で非正規雇用が増えても問題ないことになりますが、それでは非正規雇用の増大はもんだいだという主張と矛盾します。
谷本さんの主張は欧米の労働者階級の生活は理想的だといっているように思えます。本当でしょうか。我が国では明治以来水飲み百姓の子供でも末は博士か大臣か、はたまた将軍かという道がありました。
ところが英米では未だに身分はほぼ固定です。労働者階級がアッパーミドルになれることは非常にまれです。だからジェフリー・アーチャーの小説が人気があるのでしょうけども。
頑張っても這い上がれない、努力しても報われない。だから努力をしないし、目標も持たない。今晩のビールさえ飲めればいい、谷本さんはそのような人生こそが「素晴らしい」と礼賛しているわけです。
日本ではこのような話があります。
男は朝っぱらから大酒をあおり、女は陰で他人をそしり日々を過ごすどん底の田舎町。
この町でよそ者扱いされた青年が、町民の大反発を買ったことから始まった感動の再生ストーリー。
今では70代、80代のおばあちゃんたちが、売上高2億6000万円のビジネスを支え、人口の2倍もの視察者が訪れる注目の町に変貌。
著者が二十数年かけて成し遂げた、命がけの蘇生術の全貌が明らかになる! (アマゾンより)
これを始めたのは役場の人間です。彼は別に与えられた仕事だけをやっていれば、こんなことをやらなくても良かったはずです。ですが、少しでも地元を良くしようとしてこの活動をはじめたわけです。谷本さんにいわせば馬鹿な奴だということになるでしょう。
ですが、ひとはカネのためだけに仕事をしているわけではありません。
でもそれならばシティの金融機関は何であんなに強欲に儲けていたんでしょうかね。
シティの金融関係者は皆そんなに優雅に働いているのでしょうか。ぼくの知っている話とは随分違いますね。本当に金融機関で仕事をしてらっしゃるのでしょうか。
これは次回に回します。
以下の記事を朝日深部のWEBRONZA+に寄稿しております。
空自のF-35は中国が導入するSu-35に対抗できるか(上)
――ロシアが売却する事情とは?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013070400007.html?iref=webronza
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(1)――墜落を恐れた?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013061900007.html
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(2)――省内の食い違い
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013062000004.html
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(3)――難しい新規参入
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013062700005.html?iref=webronza
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(4)――「我が国固有の環境」とは何か
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013070100008.html?iref=webronza
谷本真由美さんのツイッター
https://twitter.com/May_Roma
谷本真由美さんのブログ
http://eigotoranoana.blog57.fc2.com/
谷本さんは日本の勤労者の労働時間が欧州と比べて長いといっています。統計的にそれは事実でしょう。ですが、統計に入っていない数字もあります。
例えばイタリアやフランスでは労働時間が短いが、給料が安い公務員がバイトしたりしています。学校の先生がウエイトレスとかしたりしています。
また失業保険をもらいながら闇でバイトをしたりしています。これはフランスではノワール・トラバーユ(黒い仕事)と呼ばれています。当然統計には入っていません。
谷本さんは失業率に関しては述べていません。今更言うまでもありませんが、欧州では失業率が日本よりもかなり高い。しかもレイオフは新入社員から行われます。また雇用保険など企業の負担が多いので、企業は正社員の採用には及び腰です。
ですから、イタリア、フランスなどでは若年層の失業率が長年高いままで、しかも近年の金融危機で更に深刻化しています。ギリシャなんぞ若年層の失業は6割近いです。
http://www.garbagenews.net/archives/2069335.html
欧州の若年層は就職の機会が非常に低いです。日本の非正規雇用よりも遙かに深刻です。
欧州で失業率が高い一つの原因は、労働者の質の悪さ、にあります。だったらもっと安価で熱心に働くところに工場を移そう、そうなります。事実なっています。
また日本人は欧州に比べて貯金(生命保険なども含む)率が高いという事情があります。これまた実際の可処分所得を少なくしている原因ですが、本来比較にはこのような事情も加え得るべきですが谷本さんは考慮しないようです。
(日本の) 「非正規雇用労働者の増加は、バブル期以上に『実質的な豊かさ』を感じられない人を増やしています」 (P39)
ところが90年代以後、日本の経済が一番堅実です。英米のように貧富の差が広がっているわけでもありません。こういう数字は谷本さんは見ないようです。
一部の金持ちが労働者を搾取し、高額な報酬をとる。それでも英米の労働者は幸せだ、そのように谷本さんは考えているのでしょうか。
谷本さんはオリンピックで不手際ばかりだったことを老大国の余裕としています。「この『人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし』という態度は、落ちぶれた故に悟りの境地にはいったという『イギリスという国の本質』ではないのか、と思うのです。何事も真剣にとらえず、笑いのセンスで対応する。すなわち、それは人生を楽しみ、些細なことは無視し、いつも人生の明るい面をみようという『イギリス的悟りがもたらした豊かさ』のように思えるのです」 (P45)
谷本さんはその前の43ページに高速道にヒビがが入りまくり落下の危機だったことが判明」と書いています。
これは「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」なのでしょうか。普通の感覚とは随分違います。
またその前のP41~42では警備会社が1万人もの警備員の発注を忘れてた話も紹介しています。これまた「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」なのでしょう。
英国は元来テロに敏感です。地下鉄やバスの中も含めて町中監視カメラだらけです。近年もイスラム系の爆弾テロがありましたが、オリンピックで爆弾が仕掛けれて多数の人間が死傷しても谷本さんは「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」と仰るのでしょうか。
また英国ではデモが暴動に変わることが多々あります。オリンピックでデモが暴動に変わったり、爆弾テロが起きた場合誘導する警備員が足りなければ、パニックになって不要な死傷者が出る可能性は極めて高くなります。
でも谷本さんはこれまた「人様が死ぬとか、そういう重大な事態ではないし」というのでしょうか。
で、その後に谷本さんはボールドで「物やお金は朽ちるから、家族や時間、友人などを大切にしなくてはいけない、仕事は生活の最優先事項ではない」と結論づけています。
カネよりも自由が優先する、それなれば所得が低い非正規雇用でもいいということになりませんか?
失業者や生活保護でぶら下がれば働かずに、「豊か」に暮らせます。
日本で非正規雇用が増えても問題ないことになりますが、それでは非正規雇用の増大はもんだいだという主張と矛盾します。
谷本さんの主張は欧米の労働者階級の生活は理想的だといっているように思えます。本当でしょうか。我が国では明治以来水飲み百姓の子供でも末は博士か大臣か、はたまた将軍かという道がありました。
ところが英米では未だに身分はほぼ固定です。労働者階級がアッパーミドルになれることは非常にまれです。だからジェフリー・アーチャーの小説が人気があるのでしょうけども。
頑張っても這い上がれない、努力しても報われない。だから努力をしないし、目標も持たない。今晩のビールさえ飲めればいい、谷本さんはそのような人生こそが「素晴らしい」と礼賛しているわけです。
日本ではこのような話があります。
男は朝っぱらから大酒をあおり、女は陰で他人をそしり日々を過ごすどん底の田舎町。
この町でよそ者扱いされた青年が、町民の大反発を買ったことから始まった感動の再生ストーリー。
今では70代、80代のおばあちゃんたちが、売上高2億6000万円のビジネスを支え、人口の2倍もの視察者が訪れる注目の町に変貌。
著者が二十数年かけて成し遂げた、命がけの蘇生術の全貌が明らかになる! (アマゾンより)
これを始めたのは役場の人間です。彼は別に与えられた仕事だけをやっていれば、こんなことをやらなくても良かったはずです。ですが、少しでも地元を良くしようとしてこの活動をはじめたわけです。谷本さんにいわせば馬鹿な奴だということになるでしょう。
ですが、ひとはカネのためだけに仕事をしているわけではありません。
でもそれならばシティの金融機関は何であんなに強欲に儲けていたんでしょうかね。
シティの金融関係者は皆そんなに優雅に働いているのでしょうか。ぼくの知っている話とは随分違いますね。本当に金融機関で仕事をしてらっしゃるのでしょうか。
これは次回に回します。
以下の記事を朝日深部のWEBRONZA+に寄稿しております。
空自のF-35は中国が導入するSu-35に対抗できるか(上)
――ロシアが売却する事情とは?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013070400007.html?iref=webronza
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(1)――墜落を恐れた?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013061900007.html
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(2)――省内の食い違い
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013062000004.html
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(3)――難しい新規参入
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013062700005.html?iref=webronza
東日本大震災で防衛省の無人機はなぜ飛ばなかったか(4)――「我が国固有の環境」とは何か
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2013070100008.html?iref=webronza
この記事へのコメント
在英の谷本真由美女史が、英国の労働者階級が一番豊かだという本を出しているが、どう思います?
と英国のマスコミに聞いてみたいもんです。
もちろん、日本にいろいろな問題があることは言うまでもありませんが、だからといってこの世のどこかにユートピアがあるわけではないことぐらい、本当に海外在住を経験した人間ならわかりそうなものですが。
もっとも、問題は彼女自身ではなく、彼女の言うことを真に受ける、こういう本がそれなりに売れてしまう現状、現実味に欠ける「日本の外に行けば、どこかに美しいユートピアが」みたいな幻想を持つ日本人がまだまだ多く存在する、ってことだと思いますけども。
実際、左翼系のサイトでは彼女のような言説は珍しくもなんともないし