国産開発機輸出の最大の敵は贔屓の引き倒し

自衛隊機を民間転用 旅客用に輸出 政府
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20100322ATFS2001U21032010.html

 昨日の日経の記事です。

因みにこれは紙版では一面トップ記事、他面にも関連記事が載っていました。
ですが今更な記事で、一面トップにもってくるような記事ではありません。

 連休最終日で余程記事が無かったのでしょう。お盆時期や連休はこの手の「埋草トップニュース」やリークを元にした怪しげな記事が掲載されることが少なくありません。

 さて、ぼくはこれら国産自衛隊機の輸出が前途洋々とは思えません。無論国内メーカーには頑張って欲しい(何しろ我々の納めた税金を使っているわけですから)とは思いますが、輸出ビジネスで成功を収めるためにはクリアしなければならない困難が山ほどあります。

 まず価格の問題です。
 救難飛行艇US-2の単価は初度費抜きで100~120億円、これに開発費を加えると200億円以上にはなるでしょう。民間市場に輸出するためには耐空証明をとらなくてはなりません。それらための追加費用も必要です。消防用に使用するなら更に開発費がかかります。

 となれば、売値はかなりのお値段になります。世界第二位の経済大国である我が国の消防庁の予算が約130億円、どこの国の消防当局が買うのでしょうか。

 また対潜哨戒機XP-1の旅客機転用ですが、これには4発エンジンを搭載した主翼を双発にし、さらに高々度での速力がでるよう再設計する必要があります。胴体もウエポンベイは必要ないのでこれまた再設計の必要があります。耐空証明が必要なことはいうまでもありません。
 しかも市場は激戦区です。

 経産省はMRJと同様に輸出の振興を手伝うならば、少ない予算を案分することになります。そのような予算が経産省にあるのでしょうか。

 製造原価を下げるためには海外製のコンポーネントの多用が不可欠となります。既に耐空証明をとっており、量産でコストく、信頼性も高いコンポーネントを使用すべきです。実際MRJではそうしています。国内のベンダーの多くは三菱の要求するようなコストでは納品できませんでした。エンブラエルも同様に海外ベンダーの製品を多用しています。

 ところが、短期的に国内製造基盤の維持という見地からみると、これは歓迎できないわけです。かといって自衛隊機は国内ベンダー、輸出向けには外国ベンダーの製品をつかうとこれまたコスト高になります。長期的には機体メーカーの売り上げが増え、国内の航空産業が拡大すればそれは国内のベンダーの利益にもなるのですが、それまでどのように国内ベンダーに仕事をまわしていくかという問題があります。


 営業経費もかかります。
 エアショーへの出展、特に実機の持ち込みをすると億単位の経費がかかります。またサービス拠点の確保も必要です。これらの費用は当面持ち出しです。

 国際的にはまったく実績のない日本のメーカーが実績をだすためにはかなりの年月がかかると思います。仮にある程度売れても黒字を出すまでには長い期間を必要とします。
例えば新明和にそのような経済的な体力があるでしょうか。重工各社にとっても大きな投資となります。


 国内に競争はなく、実戦で使用された実績があるわけでもなく、国際市場でもまれた経験がない機体が簡単に売れるほど、世界は甘くありません。

 少ない開発費、基礎研究費で他国同等、あるいはそれを凌駕する機体を次々に開発できるものでしょうか。
また割高かな国内製コンポーネントを使用し、低い生産レートで少ない機体を生産して尚かつ、他国とさほど差がない値段に抑えられるものでしょうか。それが可能としても「何か」を犠牲にしていると疑うのが普通ではないでしょうか。

 ものには相応の値段というものがあります。仮に優れた性能の航空機でも許容範囲の何倍も高ければ顧客は買いません。例えばカローラが1000万円したら、どこのタクシーがー社が購入するでしょうか。
 カーマニアが道楽でフェラーリを買うのとはわけがちかいます。営利企業であればその航空機を買って(あるいはリースして)、利益を出さなくてはなりません。

 現状はともかく、日本の航空産業には高い潜在力があります。ですから海外のメーカーや政府が手替え品変え、参入を妨害することも予想されます。

 「優れた自衛隊機はかならず世界でバカ売れするのだ」というような主張は一種の信仰です。
 景気のいい楽観論を吹くのは楽しいでしょうが、そのような厳しい現実を無視した楽観論が世に蔓延するならば、それはむしろ国内の足を引っ張ることになります。

 実際メーカーの人間に取材してみても外野が思っているほど楽観的ではありません。

 そのような考えが主流になるのであれば、経産省のサポートの予算など必要ないという声も大きくなるでしょう。メーカーにとって迷惑千万でしょう。
エアバスにしても優れた機体を開発してきましたが、黒字化にこぎ着けるまでには相当の政府のサポートがありました。


 経産省には航空産業振興のグランドデザインがありません。MRJに対しても開発費は補助するが、その先のサポートは未定です。かつてのYS-11の撤退以降猫の目のように政策が変わって持続性もありません。
現在の経産省のマーケットリサーチなどのサポート事業は単に天下り先に金をばらまいているようにしか思えません。

 10年単位で先を見据えた航空産業振興政策の策定が是非とも必要です。


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この記事へのコメント

あーにゃ
2010年03月23日 23:11
>また対潜哨戒機P-2の旅客機転用ですが、
これって経産省”だけ”の与太話で事実上ぽしゃってたと思いますが。
後、名称ってP-2になるんでしたっけ?

>「優れた自衛隊機はかならず世界でバカ売れするのだ」というような主張は一種の信仰です。

こんなバカな事を本気で主張する人間が実在するとは到底思えないので、まあ良いんじゃないでしょうか。
仮に実在するにしてもネット上で痛い主張を繰り返す程度の可哀想な子ぐらいの物だと思われるので、特に問題は無いと思われます。
SNK22
2010年03月24日 07:33
航空機だけでなく国産兵器にしてもそうですが、実際の性能や国際市場での競争力についてきちんと認識できてないような意見が結構見られるような気がします。日本製=絶対優秀という盲信なのか、単純な国粋主義なのか…。なかには故江畑健介氏と比較して清谷氏をこき下ろすような意見までありましたが、江畑氏も著書で自衛隊兵器について同様の問題を指摘していたはず。ちゃんと本読んでるのかなあ。そのあたりはいざ問題が目の前に突きつけられた時に多くの人が冷静に考えられるのかちょっと心配ではあります。
ぐすたふ
2010年03月24日 10:21
対潜哨戒機P-2とはアメリカのロッキード社製、P-2ネプチューンのことでしょうか?確かにコイツを旅客機にするのは厳しいですね。しかし知識に誤りがあるようですが?レシプロ双発ですし、P-2V-3ZというVIP用機もあるのでビジネスクラスには使えるかもしれないですね。しかしライセンス生産品を他国に輸出して良いのでしょうか?そもそも古すぎで買い手はいないのでは?
2010年03月24日 10:26
>ぐすたふ氏

あのベストセラー機か……海自ではかなり優秀な運用実績を誇ったというが……
2010年03月24日 10:56
>SNK氏
なかには故江畑健介氏と比較して清谷氏をこき下ろすような意見までありましたが、

ん~、それは仕方ないんじゃないかなあ。いや、ほら、故江畑氏はその知的誠実さに於いて唯一無二の人だった訳だし。
ぐすたふ
2010年03月24日 11:22
清谷氏はXC-2については何も言及されてませんが、ただの書き忘れか、輸出に肯定的だということでしょうか?A400Mがペイロード問題を解決できなければドイツが大量に購入してくれそうですね。
P-8が潰れたら諸外国が大量に買ってくれそうなんですが。いずれにしろ今は無理ですが。
2010年03月24日 11:56
>P-2
XPー1の誤りです。訂正します。
(゚∀゚)
2010年03月24日 13:14
>キヨタニ様
本文を訂正されたようですが「PX-1」になっています。
文章をよく読み直した方がよいですよ。
また、ご自身も見つめ直した方がよいですよ。
2010年03月24日 13:18
訂正しました。
Null_Devices
2010年03月24日 13:21
えーと、なんかロジックにへんなところがあるような。

> US-2の単価は初度費抜きで100~120億円、これに開発費を加えると200億円以上にはなる

この200億って数字はどこから出てきたんでしょう? US-2の初度費がいくらか、という情報は見つからなかったのでわかりませんが、US-2の価格が高い理由の一つとして、生産が7機程度しか予定されていないため、開発費部分が大きくなったというのがある、と聞いています。
民間型として多少の改造は発生するにせよ、1機あたりのコストが200億を超えるというのは少し考えにくいです。

> 我が国の消防庁の予算が約130億円

これは総務省消防庁だけの予算ですよね?
実際の消防については各地方自治体で持っていますので、消防に関する予算の合計金額はもっと大きいです。例えば以下のURLは埼玉県戸田市の消防予算ですが、ここだけで16億あります。
http://www.city.toda.saitama.jp/DAT/LIB/WEB/1/H21shoubouyosan.pdf


> 実戦で使用された実績があるわけでもなく

揚げ足取りですが、民間用に売るなら「実戦」は関係ないですな:-P

営業やらサポートやらの課題はその通りだと思いますし、国が国内の航空機関連産業をどうしたいのか、というところも重要なところだと思います。
ただ、ひとまず海外展開への障害が一つ除かれたわけです。可能性を一概に否定するばかり、というのも能がないように思います。
ぐすたふ
2010年03月25日 09:12
細かいことですが『対潜哨戒機XP-1』より『次期固定翼哨戒機XP-1』の方が良いのではないですか?あと、120億とか200億とか言っていますが私にはドンブリ勘定にしか思えません。まあ、実際に売り始めたらまた話題にすればいいのではないですか?
キヨタニ
2010年03月29日 22:25
PXは旅客機転用という話もあったのですが、つぶれました。官も民もリスクをとって民間機ビジネスに乗り出すとことを厭い、防衛予算にしがみついてきわたわけです。その先には緩慢な死が待っていると思いますが。 キヨタニ
2010/01/29 11:05
ぐすたふ
2010年03月30日 07:05
XP-1やXC-2を買う位ならツカノを買えということですか?それにしても露骨にXC-2を無視されていますね。ま~過去にあれだけ批判なさっていましたからかな?輸送機を規格外貨物運搬機にするならば殆ど改造する必要はないですから一番、有望なんですがね。
2010年03月30日 09:22
> グスタフ氏

上のは清谷氏が以前書いた物のコピペで、コメント主は清谷氏本人ではないと思う。
何の前置きも無しによくもここまで矛盾した妄言を吐いた清谷氏に感心した誰かが貼り付けたんでしょう。
ぐすたふ
2010年03月30日 10:45
> 呉氏

教えてくれてありがとうございます。怪しいかな~とは思ったんですが。清谷氏、今後も怪記事を書き続けて下さい。ネタが無くなりますので。
あーにゃ
2010年03月31日 22:43
しかし単純な国粋主義にも似た日本製=絶対優秀などという盲信をしている人間なんて、世間から痛い目で見られているだけだと思うんだけどな。

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