【国家の品格】藤原正彦教授は現実主義者か、共産主義者か?その①

 今月の「月刊文藝春秋」に「国家の品格」(新潮新書)がベストセラーとなった、お茶の水女子大学教授の藤原正彦氏の「愚かなり、市場原理主義信奉者」という一文が掲載されています。
 
 まあ、ぼくもアメリカ式の市場主義や民主主義の押しつけは嫌いですから、この人のことは大筋では賛成です。
 ですが、実際の社会について述べている藤原氏のこの一文を読むと何だかなあ、と思ってしまいました。
 とかく市場経済は憎し、規制緩和も憎しで凝り固まっている主張が続いてます。このため歴史的な記述も昔は良かったという感傷的な懐古趣味にしか見えません。

 確かにウイナー・テイクス・オールというようなあまりに露骨な弱肉強食な社会はぼくも是とはしません。
 またアメリカの富の偏在、即ち、中間層が没落し、一パーセントのリッチな層が富を独占、後は貧民だらけというアメリカの現状をぼくは第三世界と同じ構造であるとことあるごとに批判してきました。
 ですが、だからと言って、制度疲労を起こした我が国の社会体制を日本独自のものであると改革せずに、放置していいということになりません。それは憲法9条を金科玉条と崇める護憲権利主義者と同じでしょう。

 氏曰く「市場経済とは自由競争であり、規制緩和が不可欠である。規制とは自由の暴走を押さえ、正義と弱者を守るためのものである」

「市場経済の影響は経済にとどまらない。フリーターやニートばかりでなく若い世代に全体に及んでいる。学校を卒業しても正社員となるのは難しい。正社員になっても成果主義に追い立てられ、リストラにおびえなければならない。これでは一生懸命勉強をして良い大学にはいり、良い会社に入り、安定した収入を得よう、という動機も低下する」

「真面目に勉強してコツコツ働くより、IT長者のようにベンチャーを作り虚業に精を出した方が余程旨味があると思うだろう」
まるで日本は統制経済に移行すべし、と主張してらっしゃるように聞こえます。まるで戦前の革新官僚か青年将校のごとあります。

 ではバブルぐらいまでの日本の社会はそれほどバラ色の社会だったのでしょうか。企業年金がでて、定年まで面倒見てくれるのは僅か数パーセントの大企業か公務員、農協の様な組織に属している人たちだけです。

 藤原氏もお茶の水女子大の教授、即ち公務員です。藤原氏は日本人もほぼ全部同様に非常に恵まれた立場にいたとでも思っているのでしょうか。 
 就業人口の約三割を占める自営業者やフリーランスは、ローンが組めなかったり、クレジットカードをつくれなかったりしてきました。
 ぼくのようにフリーランスや自営業を経験した人間からみると氏の主張は「パンが手に入らない。それではお菓子を食べれば宜しいでしょう」とのたまったフランス国王のお后のような発言のような違和感を感じます。 

 戦後の日本の社会はごく一部の給与所得者が異常に優遇されきた社会で、実は一億総中流というのは幻想だったわけです。その幻想をもてたのは経済が右肩上がりで我が国全体の経済のパイが拡大し続けたからです。
 藤原氏の仰る「終身雇用」は役所と大企業だけで、我が国の大半の勤労者はそのような恩恵にあずかっておりません。これは既に多くの識者が指摘しているところです。

 またぼくらの親の世代では大企業や役所にはいった後転職すると確実に収入が減り、社会的な負け犬の烙印をおされました。ですから、前向きな転職は非常に難しかった。
 つまり、事実上転職の自由すらない抑圧された社会だったわけです。嫌でも会社にしがみついていれば「奴隷の自由」はあったわけです。

 中国が現在でも都市と農村の戸籍が異なり農民は移動の自由もないわけですが、同様な抑圧が我が国にもあったし、今も残っているわけです。
このようなシステムが人間的といえるでしょうか。

  故に大組織に入るとみな辞めたがらず、長い物に巻かれろと、事なかれ主義が蔓延するわけです。それが最も顕著なのが役人の社会です。
 リスクを負って一生懸命商売をしている自営業者より、現業地方公務員(水道局とかバス運転手)は分不相応な遙かに高い収入と高額退職金など福利厚生と手厚い老後を保障されています。
 地方公共団体が破綻寸前でもこのような歪んだ官民格差が存在します。
 しかも、今の我が国にはこのような低生産性の公務員を養う余裕はありません。このような格差を是正することがはたして「悪」なのでしょうか。

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この記事へのコメント

truly_false
2006年02月14日 01:14
期せずしてでしょうが、池田信夫氏も同様の発言をなさってます(↓

池田信夫blog
市場原理主義
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/9ba8ea086a36c035f834c001152aeb0a

問題なのは、中高年層の雇用維持のために若年層がワリを喰ってることに尽きるんですが。

それはともかく、LD事件でのマスゴミの豹変っぷりもさることながら、経済問題(ことに雇用問題、なかんずく“ニート”問題)についての論壇の姿勢にも、相当の違和感を感じます。かの太蔵クンのほうが、当事者だった分だけ、いくらかマシに見えたりします(↓

杉村太蔵ブログ
格差社会について。
http://sugimurataizo.net/2006/01/post_121.html
へろ
2006年02月14日 01:41
杉村太蔵はブログでニートやフリーターを生み出した原因についてこう言っている、「日本経済が不景気だったからです」と。
きぐつ
2006年02月14日 03:56
藤原先生、概ねいいこと言ってるんですが、こういう極論から極論に振れるとこあるんですよね…
プーキョージュ
2006年02月14日 04:16
国保と共済の一本化で、サラリーマン(公務員を含む)の特権なんて、消えてなくなるよ。
Joe
2006年02月14日 09:08
分別ある大人なら、どんな本だって割り引いて読む(と思います)。
感化されるのは、自分の芯が無い証拠だ(と思います)。
落武者
2006年02月14日 19:00
自分も、同じ感想持ちましたね。
内容自体は非常に平易な文体で素晴らしかったですが、
あえて言うと市場経済を否定しすぎかと。

先日、古賀なる田舎やくざ親分が
「小泉改革は軌道修正を、格差反対」と
仰せでした。
言葉も出ませんわ。
thin
2006年02月14日 20:50
まあ、その市場が信用ならなかったりするのがまた大問題なんですけど。東証のテイタラクはその極端な例ということで。
キヨタニ
2006年02月14日 21:34
学者は世情に疎い場合が多いですから。
また自分たちの世界と社会観が一般社会とりんうしていると勘違いしていることが、これまた多いです。
キヨタニ
2006年02月14日 21:38
市場なんて完全に信用できるわけはないんです。監視が厳しく、懲役百年以上とか食らい込むアメリカだってワールドコムとかエンロンの様な事件がおきるわけです。ましては経済犯罪に甘い我が国では、というところでしょう。
まあ、そうはいっても取りあえず経済犯罪を厳しく罰することが予防策でしょう。
七福神
2006年03月12日 10:58
自由と平等を謳った市場競争原理が格式の高い素晴らしい伝統、文化を持っていた日本を崩壊させようとしているのではないですか?結局自由と平等は相反する物があり両立していないでしょう。それは論理的に証明できず、アメリカは脆くもその論理が実証できず崩れてきていますね。いまや日本はアメリカの植民地と同じです。何をするにも右へ倣えで言いなりです。
すでに日本が日本でなくなってきてきるんです。先生は日本が他国から一目置かれる存在である事を書かれていましたね。一番大事なところはそこじゃないでしょうか?経済面に偏って意見されていますが、もっと奥が深い話しですね。今の世の中が混乱しているのは今の日本人が目先の事だけに一喜一憂しているからではないでしょうか。GHQ憲法に変えられてから経済一辺倒で突き進んだ日本は他の全てをないがしろにしてきました。今ツケが回ってきているんです。その事に国民独りひとりが一刻も早く気が付き、変えていかなければ、この先5年から10年で完全に駄目になるでしょう。
2006年03月12日 17:45
ぼくはこの国に関しては楽観的なんです。我々の世代ぐらいまで、世界=アメリカという世界観の人が多かったんですが、最近はそうでもないようです。また政治でも特定アジアに対してハッキリものを言えるようになったし。細かなところではかなり55年体制からの脱却が始まっているように思います。
通りすがり
2006年03月15日 07:57
氏曰く~といった引用をされている箇所についてですが、そのような記述がこの本の中のどこにも見当たらないのですが・・・「国家の品格」とは別の本から引用されているのですか?氏、曰く~と引用するなら引用もとの書籍を明記して欲しいものです。
2006年03月15日 15:53
文頭にあるように、文藝春秋に掲載された「愚かなり、市場原理主義信奉者」
を批評の対象としております。タイトルで誤解を与えてしまったようですね。
春の風
2006年05月02日 16:31
タイトルを見て藤原さんの弁護を書こうと思ったのですが誤解だったので止めました。このタイトルだけ見ると藤原さんは筑紫哲也と同類かと誤解を与えてしまいそうです。
 藤原さん自身はプロの数学者の熾烈な競争の中を生き抜いてきています。ご自身は(学問の世界に関しては)自由競争賛成、年功序列反対と思われます。基本的には経済の自由競争にも賛成のはずですが現状行き過ぎと感じてちょっと極論を言われただけと思います。
キヨタニ
2006年05月02日 18:51
ぼくもおおむね藤原氏の意見には賛成なのですが、なのにすごい反発を覚えます。
それは氏が銀のスプーンを咥えて生まれてきたご自分の立場をおいて他人を批判するからです。
 氏の個人的なことをどうこうは言いませんが、日本の大学の教授、助教授たちは一旦なってしまえばどんなに怠けていても定年までその地位を保証されます。特に国公立なら尚更です。自分たちは手厚く国家に保護されているわけです。氏にはご自分がそういう特権階級に属しているという自覚が無いままあれこれ勇ましいことを言われも非常に上っ滑りに聞こえます。
 他人に厳しく、自分に甘くというのが武士道でしょうか。
 
 

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