清谷信一公式ブログ  清谷防衛経済研究所 

アクセスカウンタ

zoom RSS 自衛官の「命の値段」は犬以下なのか?

<<   作成日時 : 2015/03/28 12:39   >>

ナイス ブログ気持玉 58 / トラックバック 0 / コメント 11

 先週、東洋経済オンラインで以下の記事を掲載したところ、思いのほか反響がありました。

自衛官の「命の値段」は、米軍用犬以下なのか
実戦の備えがないため派兵どころではない
2015年03月19日 東洋経済オンライン 清谷信一
http://toyokeizai.net/articles/-/63496


 この記事についての意見で、「だから防衛費を増やせ」というものが少なくありませんでした。

 ですが、ぼくは反対です。そのような趣旨で書いた記事ではありません。
 いくら予算を増やしても、自衛隊は「火の出る玩具」を買うでしょう。

 こう言っては何ですが、ギャンブル依存症で、子供の給食費にまで手を付けるお父つぁんにカネを渡したら、その足でパチンコなり競馬場へ向かうでしょう。そのカネが給食費に使われることはないでしょう。

 問題の根幹は、自衛隊に「自分たちは戦争に備えているという意識が無い」ことです。無難に演習さえこなし、組織内に波風を立てないことを最優先していることです。

 ですから今回、自衛隊のやっていることは「戦争ごっこ」でしかないと批判したわけです。
 戦争をすれば死人が出、手脚を失う人間も当然出ます。ですがそれは「無いこと」として、平時にそれらしく見えればいいや、という考えです。

 それは火事を想定しない消防とか、犯罪を想定しない警察みたいなものです。実戦に備えている消防や警察から見れば、自衛隊のやっていることは「ゴッコ」に過ぎません。


 つまりサバイバルゲームやテレビゲームのプレーヤーと同じ程度の認識で軍備を整えているわけです。その発想と、事なかれ主義を根本から立てないさないといけません。

 実戦ではリプレイをすることはかないません。死んだらそのまま、手脚がもげてもそのままです。元に戻ることはありません。

 衛生だけではなく、通信でも同じです。ぼくは陸自では無線機が足りずに、あっても通じないということを長年報道してきました。それは東日本大震災で明らかになったわけです。これが中国との戦争だったらどうだったでしょうか。通信という軍隊で言えば神経組織がまともに繋がっていないことを、問題であると思っていなかったわけです。いくら10式戦車を入れようが、機動戦闘車を入れようがそんな組織が戦争に勝てるわけはありません。
 同様に防衛省が自画自賛していたUAVは一度も使用されていませんでした。

 記事中に10式戦車のような「火の出る玩具」を買うよりも、衛生を充実させろと書きました。戦車はさほど重要性もなく(実際大綱でも減らしています)、既存の戦車の改良で間に合いました。不要不急の装備に大金をかけて予算を浪費しているから、本来必要な予算が手当できていません。
 そのためしわ寄せとして、衛生や通信、被服など本来「軍隊」としての活動基盤の基礎となるものが被害を受けています。これで戦争ができるわけはないでしょう。
 
 不思議なことにファーストエイドキットは不備でもいいのだ、国内で戦うことはない、むしろ10式戦車が必要だという反論もネット上で多数見られました。国内で戦うことがないならば、新型戦車は勿論、そもそも陸自の存在自体が不要だということになります。
 こういう思考回路のお持ちの方には何を言っても無駄でしょう。

 「火の出る玩具」さえあればいいというのは、戦争を否定すれば平和になるという観念的平和主義者と同じです。こういう自衛隊絶対礼賛の自称「軍事通」こそが自衛隊の弱体化を招いています。率直にいえば「無能な味方」は人民解放軍よりたちの悪い国防の敵です。ところがこの手合に限ってそのような自覚がありません。


 また、こういう軍隊ではありえない、自衛隊の平和ボケの現実を「愛国報道」がお得意のメディアは勿論、自衛隊に批判的なメディアすらも殆ど報道してきませんでした。で、あいもかわらず、「無敵皇軍」的な報道と、情緒的な軍隊は悪だ的な非難ばかりが目につきます。


で、昨日こんな記事が朝日新聞に出ました。
隊員救命「実戦」シフト 自衛隊、最前線想定し訓練
2015年3月27日05時00分 朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11672286.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11672286


 じつはこの件は、防衛省のHPの予算説明でも出ており、予算レクの時に質問もしました。で、月刊コンバットマガジンで関連記事も書きました。またこのぶログでも取り上げております。
http://kiyotani.at.webry.info/201401/article_25.html


>自衛隊が「実戦」を前提にした最前線での救命訓練に力を入れている。防衛省も医師の
資格のない自衛隊員が戦闘中に医療行為をできるよう、法改正の検討を始める。政権が自
衛隊の活動範囲を広げようとするなか、「戦傷」を意識した動きが本格化している。

>中国軍の海洋進出や日本政府による尖
閣国有化など日中間の緊張の高まりを受け、南西諸島の防衛を強化する戦略に転換した。

>敵が残る離島を奪い返す作戦は、負傷者が出る可能性が高く、医療施設への搬送にも時
間がかかる。政府が約10年間の防衛指針を定める2013年末の防衛大綱には、「離島
奪還部隊の新設」と合わせて、「第一線の救護能力の向上」が盛り込まれた。

>防衛省は新年度、医師や法律家らを委員にした有識者会議を設置。自衛隊法を改正して、
救急救命士の資格がある隊員が救急救命士法で認められた範囲を超えて医療行為が出来るようにするといった対応策を年度内をめどに検討する。

>■<考論>当然で歓迎すべきこと 元陸将の福山隆さん

>救命についての新たな検討は、集団的自衛権をめぐる政府の憲法解釈の変更や、自衛隊
の活動範囲の拡大といった現在の議論に沿った対応と言える。当然だし、歓迎すべきこと
だ。冷戦期までは強大な米軍の下、自衛隊は戦う必要のない「虚構の軍隊」で、敵の弾を
浴びるような事態は考えなかった。米軍の力が低下し、中国の脅威が高まるなか、戦闘の
可能性が高まっているということだろう。

>■<考論>「戦場に出る動き」危惧 元防衛庁防衛研究所員の加藤朗・桜美林大教授
(国際政治)

>中国の軍事的な進出を抑止することを目標に掲げる安倍政権の動きの一つと言える。本
格的な戦闘で命が危ないような状況を想定してこなかった自衛隊が今後、戦場に出ようと
しているということでもある。歴代政権は、自衛隊の軍隊としての側面をオブラートに包
んできた。これまで培ってきた日本の「平和大国」としてのブランドが崩れ去ることを危
惧する。


 さて、衛生なんか後回しでいいんだと主張した人たち何と言うのでしょうかね。防衛省が間違っている、そんな予算があれば10式戦車を増やせ、とでも言うのでしょうか。
 またこういう記事が「愛国報道」でお馴染みの産経新聞ではなく、朝日新聞で出ることも極めて興味深いと思います。
 
 さて、現在このような取り組みは行なわれておりますが、順当にいっても、法律を改正し、衛生システムの再構築を行い、関連装備を調達し、教育システムを整えるためには最低でも5〜6年は掛かるでしょう。多分10年は掛かるでしょう。
 そしてそのための予算も掛かります。それをどう捻出するのでしょうか?
 下手をすると、重要だけど将来の研究課題だね、として先送りとなって、事実上、放置される可能性もあります
 
 本来このようなことは、一種の「実戦」であった東日本大震災後に即座に検討、実行されてしかるべきでした。必要性が薄い10式戦車の調達費取りや、運用費が馬鹿高く掛かり、どのように運用するかも決まっていないオスプレイやグローバルホークなどを調達する前にやるべきことでした。
 衛生は軍隊の存立の基盤であります、10式戦車がなくとも戦闘組織としての基盤はゆるぎませんが、今のようにまともな衛生システムを持っていないということは、戦闘組織として既に失格であるということです。衛生システムをおなざりに、「ゴッコ」をやっている組織がいくら新兵器を導入しても、まともに使えるはずがありません
 


 本来このような自衛隊の欠点の指摘と改革は、メディアだけではなく、政治の仕事でもあります。ところが政治家の多くは国防に興味がないし、防衛省の「ご説明」を鵜呑みにします。あるいは、『防衛費と人間を増やせ』と何とかの一つ覚えを壊れたテープレコーダーみたいに繰り返すだけです。

 必要なことは防衛費を単に増やすことではなく、自衛隊の問題点は何であるかを追求し、カネの使い方を根本的に見直すことです。
 つまり不要な出費を減らし、必要なものに厚く予算を配分することです。防衛費を増やすのであれば、それを十二分にやった後からです。


以下の記事を寄稿しました。

東洋経済オンライン
自衛官の「命の値段」は、米軍用犬以下なのか
実戦の備えがないため派兵どころではない
http://toyokeizai.net/articles/-/63496

中国がスーダンの武器産業を支援する理由
急激に勃興する武器輸出大国の秘密とは?
http://toyokeizai.net/articles/-/62626

日本の武器輸出戦略には致命的な弱点がある
国際見本市で中小企業を積極支援するべき
http://toyokeizai.net/articles/-/62456?cx_click_topnews=article_header

Japan in Depth
【日本の「文民統制」は「官僚統制」】〜政治が軍を統制しない国、日本 1
http://japan-indepth.jp/?p=16012

アブダビのIDEX 2015、IWAに関しては東京防衛航空宇宙時評でレポートしていきます。
http://www.tokyo-dar.com/



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 58
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい かわいい

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
20年前の地下鉄サリン事件で、硫酸アトロピンやジアゼパムの他の隊員への注射は?というのが問題になりました。幸い、死ぬ・重体になるということはありませんでしたが、こういうことを想定するのも政治の仕事ではないでしょうか。医官の数も限られているので各中隊に配属はできません。又聞きですが当時、防衛庁n厚生省に緊急避難的にアトロビンの注射を医師免許がなくとも可能とするよう打診したが、医師法を盾に却下されたと聞いています。
震災時、新規導入された新野外医療システムも自衛隊仙台病院の壊れた手術室の代替として使用されました。医療機関が被災した石巻に開設すれば、現地の医療者の負担が軽減されたでしょう。多分、医療法の壁でしょう。
上記の事例から、いくらモノがあっても法律が追い付いていかないと処罰されます。政治家や官僚の怠慢ではないでしょうか。
元キャプテン
2015/03/28 15:17
清谷様へ

映画宣戦布告のワン・シーンで官邸内において官房長官が防衛事務次官と統合幕僚長に お前ら 今まで戦争ゴッコしてたのか!という台詞がありました。 有事のことを想定するとクビが飛ぶのでしたくてもできない環境にしたのは永田町の先生方ではないでしょうか。現役自衛官が物申すとシビリアン・コントロールの逸脱だ!とクビになるでしょう。
漫画加治隆介の議で、ある護衛艦の艦長が北朝鮮の工作船に発砲したら、辞めさせられました。カンボジアのPKOにおいてもポルポト派の攻勢で、武器使用の件で当時の3佐〜1尉クラス ※現在 将官になっているか、定年を迎えている方々が内局の官僚や将官と喧嘩腰に議論したそうです。
来栖発言や三矢研究で有事のことを物申すと職を失うことになるので萎縮したのではないでしょうか?この衛生の問題の根元は予算の配分だけではなく、有事を想定することは軍国主義だ!シビリアン・コントロール逸脱だ!という空気が蔓延したのではないかと思います。
元キャプテン
2015/03/28 16:08
竹島や尖閣辺りで戦争ごっこして問題点をあぶりだして欲しいです。
だから
2015/03/28 19:55
お疲れ様です。
官僚だから「法改正して終了」。
公務員意識の無い公務員は消防くらいではないですか?
彼らは毎日が実戦だから公務員意識を持つ暇が無い。
unimaro
2015/03/28 21:47
野戦医療の軽視ですか、旧軍ばりに「負傷兵は自決か処分しろ」とでも考えていたんでしょうかね?
兵隊を大事にしない軍隊は戦争に勝てませんよ〜
おっと、自衛隊は戦わないからこれで良いんでしたね。
八王子の白豚
2015/03/29 01:03
衛生と言えば、実戦ともなれば大量に発症するであろう隊員のPTSD対策はどうなっているのでしょう。
アメリカもイラクアフガン戦争以降大量に発症する兵士のPTSDと、
それに起因する帰還兵の様々なトラブルに頭を抱えつつも、結局は打つ手が無いようなのですが。
きらきら星
2015/03/29 07:22
つい最近まで自衛隊医官だった人すらも、戦争なんて起こらない、みたいなことを公言するぐらいですからねえ・・・
ひゃっはー
2015/03/29 12:51
100年以上前の日露戦争で日本兵の死傷者原因で最も多いのはロシア軍の砲弾や銃弾ではありません。答えは脚気です。森鴎外の陛下の赤子に玄米食わせる気か!と玄米を拒否し、海軍の軍医総監の高木中将※慈恵医科大の創設者は玄米入りのご飯を奨励しました。海軍の脚気患者は陸軍より少なかったです。
本題に入り、日本軍の医療・衛生軽視の体質は100年以上前からありました。平成の日本軍でも変わりません。陸でいうと主流は普・特・機・施です。衛生は傍流です。しちょう兵も兵隊なら極楽とんぼも蝶々の内よ!と歌からも体質は変わりません。自分の知っている医官や看護官はそういう衛生軽視の風潮にうんざりして民間の医療施設に転職しました。自分も兵站幕僚や兵站機関で勤務していましたので、軽視又は低く見る風潮は肌身で感じ、使えない奴がいくところだとか左遷だとか自衛官じゃないとか同業者に馬鹿にされていましたよ!登山でもクライマーだけでは踏破できず、シェルパがいるのでアタックできるのではないでしょうか?

元キャプテン
2015/03/29 16:36
衛生が不足してるのは海外遠征を前提としなかったからでしょうね。
そして最大の壁は法律。
立法府の責任が大なので、マスコミや国民も考えなきゃいけませんね。
マギカ
2015/03/30 07:23
お邪魔します。

 過去の上に現在があり、現在の上に未来が構築されます。自衛隊に求められてきたのは「役立たずでも無害である事」であり、そういった組織に必要なのは「無能な怠け者」で、有能な人間や意欲のある人間は却って「邪魔」なのです。つまり

>無難に演習さえこなし、

が自衛隊という組織の"仕様"なのです。後は「日本の赤色化を防ぐ治安部隊」でしょう(日本人は日本人に銃を向けさせる?)。だから警察官僚が牛耳っているのでは。問題なのは「ぱっと見た感じが米軍とかと似ているので、自衛隊をあたかも米軍のような実戦集団だと思い込んでいる人間がいる」事ではないかと思われます。

 元々の仕様に係る部分を変更するのは極めて困難、時には不可能な事ですので、日本が実戦集団を持つのであれば、新しい組織を立ち上げ、既存の組織からよりましな人間を移した方が良いのではないかと思われます。それができないのであれば既存の組織はなるべく大きくせず、「食糧や医薬品の備蓄」「避難施設や体制の整備(自治体所有の水陸両用車他)」を充実させた方が良いのでは。
ブロガー(志望)
2015/04/07 17:36
このブログ、Twitterでシェアさせてください。
レッドキラー
2015/04/08 22:37

コメントする help

ニックネーム
本 文
自衛官の「命の値段」は犬以下なのか? 清谷信一公式ブログ  清谷防衛経済研究所 /BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる