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zoom RSS 円安は輸出を増やすか? 中小企業の海外進出には妨げにも

<<   作成日時 : 2015/03/15 13:33   >>

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 さて、安倍政権は輸出にドライブをかけるべく、円安を許容してきました。2年前の選挙前、安倍氏が円安容認発言を始めてから、対ドル為替レートは1ドル80円から122円、概ね1・5倍です。

 これは輸入業者のみならず、食料、エネルギー、衣服、雑貨など多くの消費財が輸入されている現在物価高を招き、卸業者、小売店、そして消費者を直撃しています。
 実際GDPの約6割を占める個人消費は弱いままです。しかも雇用の多くを占める中小企業、サービス業の収益が圧迫されています。

 さて既にご案内のように、1・5倍の円安でもさほど輸出は増えていません。既存の輸出企業の円ベースでの収入が増えているだけです。安倍首相は株で儲かってウハウハの人たちが金を使うからトリクルダウン効果で景気が良くなると言っておりますが、株主の多くは外国人で、株で儲かったお金は国内に還流しません。
 円安で儲かった企業が1・5倍とはいかないまでも社員の給料を大幅に増やすかといえば増やしません。また製造業の工場の国内回帰もごく一部です。
 しかも大企業は下請けに自分たちが円安で得たような、大きな値上げを許しません。トヨタなんか、値下げを要求していないと威張っているくらいです。自分たちは濡れ手に粟で、自動的にコストを2/3に減らして大儲けをしているのに。それで下請け企業の賃金が上がるでしょうか。


 中国から国内に戻ってきた企業は円安ということもあるでしょうが、中国の人件費の高騰とカントリー・リスクを鑑みてのということが大きいのではないでしょうか。安い賃金を求めるならばベトナムなどに移っても良かったはずです。

 国内の設備投資もさほど増えておりません。何しろ現在でも日本人の賃金は国際的に見てまだ割高です。しかも国内市場が大きくなるどころか、人口減少で縮むことが予想されています。まともな経営者ならば国内投資はためらうでしょう。そんなカネがあれば成長が見込める海外に投資するでしょう。

 
 そしてエネルギーにしろ何にしろ輸入品に関してはドルベースで、円高時の約1・5倍の対価を円貨で支払わないといけなくなっています。つまり、外国への支払いは1・5倍に膨れ上がっているということです。

 さて、ここからが本題です。円安が実はこれから海外に進出を考えている中小企業にとっては必ずしも追い風にはなりません。

 確かに製品の価格が2/3に下がったことは価格競争力を高めます。
 ですが、これから海外に進出する企業の初期投資は円貨ベースで1・5倍に増えます。

 一番とってリ早い海外進出の方法は見本市に出展することですが、そのコストがべらぼうに上がっているわけです。出展料やブースの造作、ホテル代、すべて1・5倍です。輸入と同じく、支払いは外貨で請求されますから。

 ただでさえ、中小企業にとって海外の見本市出展は大きな負担です。しかも必ず成功するとは限りません。一回出しただけでは、成果が出るとは限りません。出展の方法や展示方法も変えていく必要があります。そもそも海外との取引に慣れていないわけですから試行錯誤とノウハウの蓄積が必要です。
 できれば数年間、同じ見本市だけではなく、複数の見本市に出したいところです。

 であれば、安くても数百万、出展規模によりますが、数千万円かかる場合もあるでしょう。しかも必ずしも売れるとは限らない。つまりリスクを背負って投資するわけです。その予算が1・5倍に増えるわけです。それはリスクも1・5倍に増えることになります。

 円安になれば、既に輸出を行っており、ルートを持っている企業には良いでしょうが、これから海外市場開拓する中小企業には結構剣呑な状態です。

 円安を今すぐ円高に戻せとは申しませんが、公共事業で土建屋にカネをばらまいたり、地方創生として頭の悪くて金儲けのセンスもない地方の役人カネをばらまいたりするよりは、中小企業の海外進出、輸出促進にカネをかけるべきです。

 これから海外進出をする、あるいは始めたばかりの中小零細企業の海外出展にかかる費用を、せめて為替差損の1/3程度、できれば半分ぐらい負担することにカネを使うべきじゃないでしょうか。成長が見込める分野、例えば航空宇宙などに絞るのも手でしょう。


 現状円安は一部の輸出企業、特にソニーのようなテメエの経営判断ミスでダメになった企業に、消費者や国内産業から収奪したカネで補助金をばらまいているようなものです。これで企業の競争力が上がり、景気が良くなるでしょうか。ダメな企業のダメな業態を延命させるだけです。

 そして現実問題として、これだけ急激な円安でも輸出はさほど増えておりません。この厳しい現実を政府な直視すべきです。


以下の記事を寄稿しました。

東洋経済オンライン
中国がスーダンの武器産業を支援する理由
急激に勃興する武器輸出大国の秘密とは?
http://toyokeizai.net/articles/-/62626

日本の武器輸出戦略には致命的な弱点がある
国際見本市で中小企業を積極支援するべき
http://toyokeizai.net/articles/-/62456?cx_click_topnews=article_header

Japan in Depth
【日本の「文民統制」は「官僚統制」】〜政治が軍を統制しない国、日本 1
http://japan-indepth.jp/?p=16012

アブダビのIDEX 2015、IWAに関しては東京防衛航空宇宙時評でレポートしていきます。
http://www.tokyo-dar.com/



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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
お邪魔します。
 これも山本七平氏の言う「気概演技」の問題ではないかと思います。経済・景気に対し「為替誘導します」「公共事業を増やします」「地方に金をばらまきます」と言えば(実行すれば)、「経済・景気に対し気概のある政治家」と見なされますが、地道な中小企業の海外進出支援をやっても「気概のある政治家」とはみなされないのです。また国防に関しても勇ましい発言をしたり高額兵器を買い漁ったりすれば「国防に対し気概のある政治家」とされ、地道な防衛力向上の努力をしても「気概のある政治家」とはみなされないのです。「気概演技」は所詮「演技」ですから、演技が上手ければ良く、実際にそれで結果が出なくても、却って逆効果になってもそれは問題にされないのです。政治家にすれば自分の力「だけ」では出せない場合もある「結果」よりも「自分の努力でできる範疇の大きい”演技”」に力を入れるのもある意味「当然」ではないかと思ったりします。
ブロガー(志望)
2015/03/16 23:00
中小企業の海外展開に円安が足枷になるのは事実ですが、円安ならば海外展開する必要性そのものが消失する場合が多いわけで。
製造業は特にそうだから、私の周りでは小さな鉄工所のあんちゃん含め、大概みんな喜んでます。
リーマンショックから民主党時代の狂ったような円高の時は首切りや倒産でホント雰囲気最悪でしたけどね。
首吊って死んだ人も個人的な知り合いに居ますし。
円安時にサービス業界で海外展開するならイニシャルコストは高くなるけど、円ベースでの利益率は上がる場合もあるでしょうし、一概になんとも言えない。
まあ輸入業の人は大変でしょうけど、彼らも数年前はウハウハしてたわけで、正直ザマァ見やがれと思わなくもないw
諸行無常ですね。
梨好き
2015/03/16 23:30
海外進出=正解という感じの記事ですが、国内で勝負すると言う選択は×なんでしょうか?
企業の判断としてはあえてそれをやるのもアリかと思いますが・・・・
八王子の白豚
2015/03/17 23:07
景気はかなり良くなっています。
統計上も失業率はここ何十年かで最低レベルですが、統計以上に、実感としての雇用は改善しています。
新卒・転職市場の賃金は上昇していますし、求人を出しても数年前の賃金レベルでは人が来ません。驚くべき事に、トヨタの下請け企業ですら賃金が上がっています。被雇用者側からは、物価上昇を考慮しても今のところ万々歳のアベノミクスと言えるでしょう。
もちろんこれは逆に、事業者にとってマイナスの面も多々あります。最近、都内では深夜営業の時間を短縮する店が増えています。それはブックオフとかスターバックスとか、意外な所にまで波及していますが、これは恐らくは、人手不足と賃金上昇で営業時間を短縮せざるを得なかったのでしょう。
これは当然に、コストの上昇とそれによる利益の圧迫を意味しています。もちろん、失業者が減れば消費も増大し売上は増えます。統計上も、2014年は個人消費支出が増大しています。
しかし、それ以上に原料費と人件費が高騰したので、内需企業は大変です。これは実は少子高齢化社会の労働力不足と同じ現象でもあります。今はまだ、女性や高齢者の労働参加率をあげる事でしのげていますが、10年後には確実に到来するでしょう。その時は、円安が解消されても、この事態は改善されません。内需企業は試練が続きますね。
X
2015/03/17 23:37

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