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zoom RSS わが国の防衛生産・技術基盤を如何にすべきか〜 評価と課題

<<   作成日時 : 2014/04/22 14:05   >>

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わが国の防衛生産・技術基盤を如何にすべきか〜大臣に提言を申入れ
http://blogos.com/article/84957/

概ね妥当な提言です。ですが現実から目を背けている部分もあります。

まず、防衛省・自衛隊の装備開発・生産に関する能力の評価がなされていないことです。
これが極めて低いし、内外の技術事情に関してはかなり無知です。

防衛省は装備調達に関わる、下請け企業がどのような企業で、どのような技術をもっているかも把握しておりません。これを現在泥縄で調査を始めたというところです。

民間技術の軍事転用技術、また海外の軍事関連企業に関する情報も同様です。
これらに関するデータベースなんぞありません。

これは森本敏氏の「武器輸出三原則はどうして見直されたか」(海竜社)でも述べられています。

情報と現状を知らずに、対策は立てられません。

防衛省の能力の低さのひとつが人的資源にあることも述べられておりません。
防衛省の調達関連の人員は英仏独あたりと較べても二桁少ない状態です。
ですから、業者に要求仕様書を書かせたりしています。
つまり人的資源の質量とも大幅に劣っています。
この厳しい現実を直視すべきです。

新しく創設される防衛装備調達庁も人員は2千名程度を想定しています。
人員はすぐには増やせないので、徐々に増員する予定らしいです。
率直に申し上げて、陸自の1個師団を解散しても人員を装備調達庁の人員を拡充すべきです。


この提言では現在の競争入札至上主義を見なおせとありますが、これは一面は正しいのですが、現状随契に戻すと弊害も多きい。それが指摘されていません。まともな仕様書が書けないから悪徳業者の跳梁を許しているという事情も存在します。

内外の事情も知らず、仕様書も書けない人達にまともに選定ができますか、ということです。

はじめに結論ありきでトンデモな装備が調達されてきたではありませんか。
OH-1なんぞその好例で、こんな高価な機体は途中で調達中止になって当然でしょう。
ここでは今更書きませんが、能力的にも極めてアレです。

国産ヘリが欲しいという情緒と、天下り先が欲しいという実理が優先された結果です。
日本のヘリ産業の振興を図るならば、BK117のような共同開発を行った方がよほど理にかなっていました。防衛省には産業基盤育成という視点が欠けていました。
内部にそのような人材もおりません。外部から人材を登用することも考えるべきです。

それにも懲りず、UH-Xを、OH-1ベースに作ろうしていた組織になんでも随契でOKを許せば、とんでも無いことになるのは火を見るよりも明らかです。
そもそもエンジンだけでも2基億円なのに調達単価が12億円に収まるはずがありません。
にも関わらず、「悲願達成」が優先されたわけです。

まともな調査もせず、情報も持たず、確固たる運用構想ももたず、なんとなく外国と同じようなものを見よう見まね作って、何倍も高いコストで調達・維持することにメリットが見いだせるでしょうか。国産をするのであれば情報と分析、開発と試験にカネをかけるべきです。
偉い人の鶴の一声で、分析もせずに唯々諾々と新装備を開発していいわけがありません。


「自衛隊は道路交通法やディーゼル規制などをはじめとする各種国内規制の数々に従う必要があり、ミルスペック(軍仕様)と国内の諸条件の双方を満たす装備品製造は、国内企業以外に成し得ないものである」

これも思考停止です。
道路法では在日米軍はその規制に縛られないとしてありますが、自衛隊はそうではない。軍事的におかしな法的規制は、不都合がなければ自衛隊を対象から外せば宜しい。
実際に機動戦闘車は車幅2.5メートルを超えて約3メートルになっています。

電波の周波数帯も同じです。現状このような法的規制が「非関税障壁」となっています。

このような法制度の見直しこそが政治家の仕事でしょう。ですがこの提言では触れられておりません。


「一方、その他の着衣等についても、難燃性や長時間の装着による耐ストレス性、日本の気候、日本人の体型や臓器の位置等や、あらゆる運用状況を考慮して開発・製造されていることにも注意を払わなければならない」


などとあります。ところが国内環境を考慮しているわりには装甲車輌にはクーラーは付けられておりません。
また難燃繊維の使用でも多く遅れています。米軍は戦闘服にオランダのテンカート社製の難燃繊維を導入していますが、この原料のアラミド繊維は帝人が供給しています。ところが帝人は東レと東洋紡に阻まれて防衛省市場に参入できていません。
自衛隊の戦闘服や下着は難燃繊維の導入が遅れています。

国産を主張するのであれば、国内での競争を行うべきですが、それが行われておりません。
既存企業の独占利権を守るのが国益ではないでしょう。

また諸外国では実戦の経験とノウハウを蓄積したメーカーが多数ありますが、我が国には粗存在しません。それでいて他国並みの製品が開発できるのでしょうか。
この部分は国産至上主義な匂いがします。

防衛産業の振興とは現在の防衛産業企業の利権の温存ではないはずです。

「輸入装備品が増えるほどに多額の国税が国外に流出するが、国産であれば国内を還流する。そうした経済的利点や、防衛技術力が他国の侵攻やテロリスト等の攻撃を阻ませ、安全保障上も国の抑止力となり得ることからも、自国で作れない場合は、まず輸入し、ライセンス国産した上で完全国産化を目指すのが世界の通例となっている」

これも古い認識です。まず国税の海外流出といいますが、外国から買えば1丁5万円の小銃を30万円以上も買っているわけです。5万円が海外に流れるのと、差額25万円を納税者に負担さるとのどちらが納税者の負担を減らせるでしょうか。
国内生産にこだわるのであれば、コスト削減を行うべきでうす。そのためには業界再編も必要です。その覚悟はこの提言にはありません。

無論国産を行うメリットもあります。それを否定するつもりはありません。が、それを言い訳にして胡座をかいて、しょうもない装備を開発・調達し続けているのが現状です。
例えば機関拳銃のような時代遅れのクズのような装備をわざわざ開発し、諸外国の10倍以上の調達コストを掛けて調達することに国益なんぞはありません。


国内生産基盤を残すためには「血と涙」が必要です。ですが提言にはその覚悟がなく、現状を是としてるように思えます。

諸外国では軍服や個人装備含め、外国製を導入することが普通になっています。
それはコスト的に自国生産がわりに合わないからです。提言の主張はアパルトヘイト時代の南アフリカならば説得力がありますけども。


「わが国の防衛装備品は概ね高い可動率を維持している。これは装備品という国有資源の効率的活用であると思料する」

これも現実を把握していません。P−1などの新しいモチャを買うのに予算をとられ、整備維持費が十分になく、稼働率は10年ほど前と比べてかなり落ちています。陸自でもオーバーホール、あるいは近代化が行われず、これによって稼働率が落ちている車輌が少なくありません。

海自のMCH-101やTH-145などのヘリは諸外国や国内民間と比べて稼働率が低い。これは組織的な欠陥によるものです。

こういう厳しい現実を見るべきです。


「防衛部門を赤字事業にしてはならない」

ここはまさにその通りです。一番大事なことです。
我が国では防衛でカネ稼ぐことが悪であるかのような風潮がありますが、このような情緒的な批判は誤りだと政府は積極的に納税者を啓蒙すべきです。
これまで世論を慮ってそれを怠ってきたことを反省すべきです。

利益が出なければ、R&Dも設備投資も、従業員の教育もできません。雇用だって危うくなります。ですから防衛産業では適正な利益が必要です。

よく涙ぐましいコストダウンや、商売でやっているんじゃない的な浪花節的というか、演歌の面倒くさい女的な状態を「美談」として報じる人がいますが、これは美談ではありません。

R&Dや設備投資もできない企業が十年一日で同じものを作っているケースが多々有ります。
例えばSLからディーゼルや電車に移行しているのに、蒸気釜を作っているメーカーを温存するようなものです。かつて護衛艦の建造で光ファイバーを導入しようとしたら、銅線の納入業者や配線工の仕事がなくなると造船所が反発しましたが、このような既得利権保持が「国産死守」の美名のもとにまかり通り、新技術の導入を阻んでおります。


政府は、防衛産業は利益を上げなければならないことを国民に説明すべきです
併せて業界には防衛産業の合理化・再編を迫るべきです。
また既存の防衛産業の企業を守るだけではなく、新規参入に門戸を開くべきです。


防衛産業でやる気のない企業には出て行ってもらうことが必要です。

コマツや住友重機のように自社HPに防衛産業のボの字も掲載していない企業が多数あります。防衛産業は世間様からみて後ろ暗と思っているからでしょう。
この手の企業は輸出にも、事業統合にも後ろ向きです。防衛に力を入れると株主から指弾されたり、株主総会が揉めるのが怖いのでしょう。

それほど後ろ暗い商売ならばやめてしまえばいいのですが、その決断もできない。
こんな企業に競争力のある先端的な装備が開発できるわけがないでしょう。

当然投資もするつもりもなく、官需にぶら下がってリスクの無い商売で税金を喰いたいと思っているだけ。事なかれ主義の寄生虫みたいな企業です。これでは現場の社員さんも報われません。

こういう反社会的な企業は防衛市場からキックアウトすべきです。






NEXT MEDIA "Japan In-Depth"[ジャパン・インデプス]に以下の記事を寄稿しております。

<防衛産業も営利企業>政府は防衛産業の持続可能な利益確保の必要性を国民に説明すべき
http://japan-indepth.jp/?p=5052

<武器禁輸緩和>安倍政権は「防衛装備生産基盤の危機回避」という本意を国民に説明せよ
http://japan-indepth.jp/?p=5014

<200億円の海自P-1哨戒機>性能も怪しい高コスト機の開発ではなく現有機の近代化を
http://japan-indepth.jp/?p=4818

朝日新聞のWEBRONZA+に以下の記事を寄稿しました
ロシアとウクライナが簡単に刀を抜けない理由
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2014041500002.html

知られざる日本発のクールジャパン的ヒット商品「エア・ソフト・ガン」はなぜ市場を失いつつあるのか?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2014032400011.html

月刊ZAITENに「防衛産業はやりたい放題」を寄稿しました。

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月刊WEGDE4月号に以下の記事を寄稿しています

先細る防衛産業 中小こそ輸出のチャンス 国はバックアップを

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
日本人の臓器の構造・配置等は、欧州人と変わらない、ということは江戸時代の杉田玄白や前野良沢が出した解体新書の中に書いてあります。
これ書いた人、本当に小学校を出たんですか?
ひゃっはー
2014/04/22 20:45
ものづくり(兵器)をするためには、それを使うためのソフトウェア(ドクトリン)と、それを使えるようにする人間の組織の変革が同時に必要。どうも、ハードづくりばかりに目が行っていて、ソフトと組織の方は飛んでしまっている。これでは良いハードウェア(兵器)は造れない、よって防衛産業も伸びは期待できない。
マリンロイヤル
2014/04/23 02:01
よく見たら提言したメンツの中に桜林某がいるじゃないですか。いつも自衛隊の無繆性を主張しているネエチャンだ。
こんな人物が関わっている以上、清谷氏の指摘した懸案事項なんか丸っきり無視されるのは目に見えてますよ。
無視以前にたぶんそんなことまで考えが及んでいないと思う。
きらきら星
2014/04/23 21:52

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