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zoom RSS UH-X コンバットマガジン8月号掲載記事その3(終)

<<   作成日時 : 2012/10/09 00:07   >>

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 筆者はUH-XとしてBK117を押してきた。BK117は半分が日本製で、これをベースに改良を加えても開発費も初度費も殆どかならない。調達単価は日本では7〜8億円程度だが川重とユーロコプターを競わせればUH-70並の5億円程度に収まる可能性もある。BK117C2は重量約3.6トンながらキャビン容量はUH-1Jに匹敵する。
 
 ペイロードも1.7トンとUH-1Jに匹敵する。UH-Xは開発費、初度費を含めれば実質的な調達単価は予定内に収まっても約14.5億円だ。BK117ならばその半額で済む。量産されているのでパーツも安い。米軍のようにBK117は最前線では使わずに、その分調達数を減らして代わりにUH-60(輸入ならば調達価格は半額から3分の1で済む)を増やすということも島嶼防衛を鑑みればありえる選択だろう。

 先述のように筆者はUH-Xプロジェクトを推し進めた陸幕と川重、そして日本のヘリ産業を潰す可能性すらあると危惧している。UH-Xが予定通り調達されてもビジネスとしての発展性がない。これが外国企業とのジョイント・ベンチャーであれば、内外の市場での販売が可能だった。
 例えば川重がアジアでの販売やアフター・サービスを担当し、それ以外はパートナー企業の担当にすれば国外市場開拓の道も開けただろう。今回のUH-Xが外国企業とのジョイント・ベンチャーであれば、これが第二のBK117となっていた可能性もあった。だがその道を自分で閉ざしたのだ。BK117にしても未来永劫売れ続けるわけではない。そのうち防衛省以外の国産ヘリは無くなるだろう。

 であれば川重はこれまで通り防衛省の売上に頼るしか無い。
 だがユーロコプターが「第四の国内ヘリメーカー」を目指している(富士重工が脱落するので第三のメーカーか)。同社は今年5月に神戸に最新の整備、訓練施設をオープンした。
 同社がここで防衛省向けのヘリの組立・整備、更にはアジア地域の自社ヘリのオーバーホールなどを行うならば、国内メーカーはコスト的に対抗できなくなるだろう。実際に同社は空自の次期救難ヘリ商戦では国内組立を提案していた。防衛省のヘリ調達予算は将来的には削減の傾向が続くだろう。

 実際今の調達と用途廃止のペースが続けば、陸自のヘリ保有数は10年後には350機ではなく、250機を割り込む可能性があると指摘する陸自の関係者もいる。となればCH-47やMCH-101、UH-60 などにしても輸入に切り替えられる可能性がある。

 UH-Xの量産が中止となれば、代用機は輸入となる、と内局は指摘する。要求に合わないとされたBK117を採用することは、関係者の面子の問題あり得ないだろう。そうなれば整備を請け負う以外、国内メーカーに仕事はない。
 
 川重の経営陣がOH-1ベース案にこだわったのは、リスクを負ってでも内外の防衛省以外の市場に挑戦して長期的に自社のヘリビジネスを健全に発展させていくことよりも、経営陣が自分たちの任期のうちの仕事量だけ確保できればよい、と考えたからではないだろうか。官需に頼るヘリメーカーは、年末工事に頼る田舎の土建屋と同じ運命を辿るだろう。筆者は同社のヘリビジネスは10年後にはかなり難しい状況になっていると予測する。

 今回内局に取材協力を頂いたが、本来筆者はUH−Xの直接的な担当部署である陸幕装備部に取材を要請した。ところが陸幕装備部は広報室を通じて事実上取材拒否し、取材を内局に振った。だが先述のようにUH-Xは陸幕があくまで国内開発を主張し、こだわってきたプロジェクトである。
 
 それが説明責任を果たさないのは大きな問題だ。このような担当部局が多額の税金を使うプロジェクトに対して説明責任を果たさないというは他国の民主国家の軍隊ではありえない。余程納税者を説得する自信がないのだろう。
 
 かつて陸幕装備部は筆者の著作「防衛破綻」(中公ラクレ)に対して「正誤表」を作成した。筆者はその一部を入手したが、筆者の記述を「誤」とし、これが正しいとした「正」の記述が殆ど誤りだった。その中には「ウィキペディア」、あるはウィキペディアを引用した「2ちゃんねる」やアマチュアのブログを参照にしたと思われるもの少なからずあった。
 いうまでもないが、ウィキペディアは信用性が低く、大学のレポートでも資料として認められていない。装備部のレポートの質は大学生以下だった、ということになる。

 海外取材でキーパーソンに直接取材した内容を「ウィキペディア」や「2ちゃんねる」の情報を元に否定されるのではかなわない。国会議員のセンセイ方への「ご説明」資料もこのようなずさんな方法で作成されているのだろうか。このような仕事をしているから取材が受けられないのではないか、と「邪推」されても仕方あるまい。

 また同様に軍事用語として正しくとも自衛隊用語ではない、から「誤」としている箇所もあった。筆者が本書を自衛隊の内部資料として書いたのならばそのような指摘も当然だが、本書は一般向けの書籍である。
 軍事用語が間違いで自衛隊用語が唯一正しいならば、外国や旧軍の「大佐」を「1佐」と表記しなければならないことになる。社会常識の欠如、世間知らずにも程がある。
 思考が内向きでまさに「自閉隊」だ。だが前提知識のない第三者は筆者のようなフリーランスのジャーナリストと「権威ある」陸幕装備部の主張のどちらを信じるだろうか。当然装備部を信じるだろう。

 筆者はこの正誤表の内容のすべての提示を、陸幕広報室を通じて求めた、当初装備部はそれを了承し、その前提で筆者は広報室を訪問したのだが、土壇場になってこれを「内部資料であるから」と拒否した。
 また作成者の官姓名を明らかにするように求めたのだが、それも拒否された。筆者が見た範囲では「秘」にあたる内容はなかった。仮に「秘」に当たる内容が含まれているなら「ウィキペディア」や「2ちゃんねる」を元にそのような機密資料が作成されたことになり、それはそれで問題だ。

 装備部は広報室を通じての報告では、改めて調べたら正誤の箇所は百箇所以上から三箇所に減ったとのことだったが、その内二箇所は単に国交省との見解の相違に思えた。
 これらの報告はすべて広報室の担当者の口頭によっておこなわれ、装備部の人間の直接の対応も、筆者が要求した書面でも回答もなかった。本来役所はこのような場合、書面にて回答する義務がある。役所では書面になっていないものは「存在しない」からだ。当時の装備部長がこの件を知っていて、このような処置をおこなったのであれば将たる資質を疑われても仕方ない。

 この件は、あまりにもお粗末なので、彼らが正直に非を認めれば事を公にする気はなかった。「清谷ごときに頭を下げたくない」という気持ちは分からなくはないが、あくまで非を認めずこの件を「無かったこと」にするならば、陸幕装備部は同じ過ちを将来も繰り返すだろう。
 
 故に筆者は拙著「国防の死角」(PHP)においてこの事実を公表した。陸幕装備部はUH-Xに関する各種のリサーチがこの「正誤表」レベルではないと胸を張って言い切れるのだろうか。また「清谷ごとき」にすら説明が出来ずに、政治家や財務省を説得できるのだろうか。老婆心ながら心配になる。
 
 なお今回川重に批判的な内容になる旨を伝えた上でUH-Xの完成想像図の提供を求めたが、川重広報部は提供を拒否した。批判的な内容には協力できないということだろう。
 同社には防衛装備が納税者の税金で調達されており、納税者に対する説明責任を行う意識が無いように思える。自社に不都合な事案に対して広報が協力しないというでは、かつてのJALや東電と同じで一部上場企業、特に税金から支出される防衛装備関連企業として非常に問題があると思う。



朝日新聞、WEBRONZA+に以下の記事を寄稿しております。

【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(1)】 国営企業的体質?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012090700002.html

【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(2)】 問われる調達計画
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091000008.html?iref=webronza

【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(3)】 単価は妥当か?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091300014.html


清谷信一.【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(最終回)】 防衛省は意識変革を
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091400007.html?iref=webronza

【国産哨戒機P−1の開発は中止すべきだ(1)】 高すぎるコスト
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012090400012.html

【国産哨戒機P−1の開発は中止すべきだ(2)】 安価なP−3C近代化
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012090500007.html

【国産哨戒機P−1の開発は中止すべきだ(3)】 システムの開発力に疑問
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012092500014.html?iref=webronza


さて防衛調達問題を知るためにいかがでしょうか。


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通りすがりですが
2012/10/12 20:09
2ちゃん軍事板でWikipediaを引用するようなスレは極々少数と思いますが 。
Uh-xがイロコイと同じスペックでいいのかという疑問もあります。
117改造機が5億っていうのは想像に過ぎないんじゃないですかね。
大福
2012/10/30 15:46

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