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zoom RSS UH-X コンバットマガジン8月号掲載記事その2

<<   作成日時 : 2012/10/08 11:50   >>

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 現在かつて陸自には約500機のヘリがあったが、現在は約470機まで減少している。陸自ではこれを中期的には350機まで減少させるという。となるとその半分はUH-Xで占められることになる。
 削減されるヘリの多くは旧式化し、順次用途廃止となる攻撃ヘリAH-1SやOH-6などとなる。陸幕ではAH-1SおよびAH-64Dの後継となる攻撃(或いは戦闘)ヘリ、単機能の観測ヘリの調達は考えていないようだ。
 現在有力なのはUH-Xをベースに軽武装型を開発し、これを攻撃ヘリや観測ヘリの任務などに当てるというものだ。 そうすればUH-Xの量産化が進み、調達および運用コストが下がるという目論見だろう。

 だがこれは現実的ではない。偵察や火力支援ならば5トンクラスのUH-Xでは機体が大きすぎる。調達・運用コストは高くなるし、被弾の可能性も高くなる。
 現在米軍陸軍では旧式化が激しいOH-58カイオアウォーリアーの後継機、AAS(Armed Aerial Scout武装航空偵察)ヘリを予定している。そのAASの本命と見られているのがEADSノースアメリカが提案しているが米陸軍が採用したUH−70Aの武装型、AAS-72X+だ。
 AAS-72X+は乗員二名で兵装は 2,800ポンド (1,270kg) 。2時間12分の航続時間を有し、さらに予備燃料で 20分 の航続が可能だ。米陸軍は来年度の予算でAASの開発費として7千9百万ドル(約64億円)を計上する。
 我が国でUH-Xをベースに武装ヘリを開発するのであれば、少なくとも同等の金額がかかるだろう。しかも調達機数は精々数十機だろうコストが高くなる。
 UH-70Aの調達価格は民間ヘリの転用ということもあり現地生産にも関わらず5億円UH-Xの半額程度だ。小型ヘリで十分な任務に大型ヘリを使えばコストが高くなるのは自明の理であり、機体共用によるコスト削減効果は限定される。

 そもそもUH-1の後継が5トン程度のヘリで良かったのか疑問が残る。乗員数が同じであれば、光学電子装備、増加装甲や自己防御システムはUH-1Jよりも重たくなる。
 また他国の例を見れば、搭乗する普通科の装備もより重たくなるだろう。単なるUH-1Jの買い替えではなく、より大きな機体、あるいは小さな機体で定員を少なくし、機数を増やすなど運用を根本的に見直すべきだった。UH-Xは5トンに落ち着いたのは、OH-1をベースだとその程度の大きさが限界だったからという話も陸自やヘリ業界関係者漏れ伝わってくる。

 陸自では今月(6月)に米ディロン・アエロ社の7.62ミリガンとリングガン、M-134Dを1セット調達し、UH-60やCH-47、軽装甲機動車などに搭載して1年間試験運用を行い、結果がよければ導入する。M-134Dは駆動に電力が必要であるのでUH-Xでも使用するのであれば、その電力の確保、即ちエンジンの余力も必要だ。UH-1Yは左右に2丁の7.62ミリ・ガトリングガンを搭載するためにエンジン二基の他に、補助動力装置として三基目のタービンエンジンを搭載している。
 世界的にもヘリ用の火器としての12.7ミリ機銃M2が見直される傾向がある。ラインメタル社でも電動駆動式の12.7ミリ機銃を開発している。今後ヘリ用機銃は動力化が主流となる可能性は否定できない。今回の取材ではUH-Xは将来の余力も見込んでエンジンの出力には余力を持たせているとのことだったが、果たして機体の規模でどの程度の余力があるのだろうか。


 今回の取材で気になったが、UH-Xは明確な最大速度や航続距離、ペイロード、上昇限度その他の仕様、搭載機器も未だ決定していないとのことだった。それが本当ならば陸幕の要求仕様や運用構想自体が存在しないことになる。であればどのようにして公平かつ、合理的にOH-1の改良案を選んだのだろうか。
 
 機動戦闘車にしても火力戦闘車にしても明確な運用側の運用構想も性能要求もなく、出来上がった装備に運用をあわせる傾向があるが、このようなことでまともな作戦が可能だろうか。

 また防衛省は国内の防衛産業基盤という観点からUH-Xを考えていないということだった。それは経産省の所轄だという。だが、それは当事者意識の欠如ではないか。将来我が国のヘリコプター産業をいかに振興すべきか、という構想がないのは大きな問題だ。
 ヘリ産業の育成、国内生産基盤を全く考慮しないのであればコストに合わない国産生産は全てやめるべきだろう。防衛省が産業基盤維持に自分は関係ないというのは責任転嫁であり、防衛を司る官庁として無責任だ。

 現在我が国にはヘリメーカーは3社あるが、川重のユーロコプターとのジョイント・ベンチャーであるBK117以外はほぼ防衛省需要である。つまり民間はもとより警察や消防、地方自治体などの国内官需市場ですら国内メーカーには市場シェアはほぼゼロだ。
 防衛省だけが唯一の顧客だ。防衛省売上に頼みでは売上の拡大はできない。また基礎研究も全て防衛省からの収入で賄うしかない。
 また市場に晒されていないために「社会主義国の国営企業」的になりコスト高になる。東電や道路公団と同じ構図だ。防衛省やメーカーは武器禁輸をこれの言い訳にするが、航空機の中ではヘリは最も軍民の垣根が低い航空機分野だ。民間ヘリが軍用に使用されることも極めて多い。
 実際に業界一位、二位のユーロコプター、アグスタ・ウエストランドの躍進は民間市場に力点をおいた経営戦略をとったからだ。リスクを取って国内外の市場に打って出る気もない、ニートのような国内メーカーを税金で維持する必要があるのだろうか。
 
 UH-Xを民間転用すれば量産効果が出て、調達コストもさがるという期待もある。実際陸幕はそのように主張している。だがそれは幻想にすぎない。仮に調達単価が12億円に収まっても(多分ないだろうが)、高々自衛隊向けは200機程度、運用コストはどうしても割高になる。
 誰がエンジンも機体も何の実績もない怪しげで運用コストの高いヘリを買うのだろうか。海保や警察にしても調達・運用コスト、稼働率の確保にシビアだ。国、地方ともに財政に余裕がなく鷹揚に「国策ヘリ」を調達する余裕はない。

 民間転用するのであれば防衛省は試験データなどを提供するというが、それがあっても耐空/型式証明を取るためには、莫大な費用がかかる。川重には国外には営業やサポートの拠点は存在しない。これを構築するためには莫大なコストがかかる。
 しかも必ずしもUH-Xが売れるという保証はない。そのようなリスクを今まで避けて、防衛需要に依存してきた川重が負うのだろうか。実際問題として最大手のユーロコプターですら現在では単独での新型ヘリの開発は殆どおこなっていない。川重が容易に民転機の開発や内外の市場で販売コストを回収し、利益を出せると考えるのは楽観論を通り越している。



朝日新聞、WEBRONZA+に以下の記事を寄稿しております。

【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(1)】 国営企業的体質?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012090700002.html

【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(2)】 問われる調達計画
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091000008.html?iref=webronza

【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(3)】 単価は妥当か?
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091300014.html


清谷信一.【UH−X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(最終回)】 防衛省は意識変革を
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091400007.html?iref=webronza

【国産哨戒機P−1の開発は中止すべきだ(1)】 高すぎるコスト
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012090400012.html

【国産哨戒機P−1の開発は中止すべきだ(2)】 安価なP−3C近代化
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012090500007.html

【国産哨戒機P−1の開発は中止すべきだ(3)】 システムの開発力に疑問
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012092500014.html?iref=webronza


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