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zoom RSS YS−11の引退に思う

<<   作成日時 : 2006/09/27 21:38   >>

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 我が国でのYS−11の商業飛行が終わりました。歴史にIF(イフ)は無いといいますが、YS−11に続く機体を開発し、製造元であった日本飛行機製造を発展させていれば日本版エアバスとなり、ボーイングやエアバスと並んで世界の大型旅客機の一角を占めていたかもしれない、というのもあり得た話かもしれません。
 そこまで行かなくともエンブラエルやボンバルディアあたりと肩を並べていた可能性はあります。 YS−11のセールスで培った営業ノウハウは霧散してしまったのは極めて残念です。日本人の得意とする納期の厳守、速やかで痒いところに手のとどくアフターサービスがあれば良い線はいったでしょうに。

 飛行機マニアと呼ばれる人たちは得てして機体だけに目がいきがちですが、民間機ビジネス、特に旅客機ビジネスではマーケティングやセールス、アフターセールス・サービスなどが極めて重要です。良い機体だから売れるというのは幻想でしかありません。また商売自体、特に新規参入には莫大な投資が必要です。昨今の三菱重工や川崎重工などの旅客機参入に関することを書きましたが、どうもそのようなことを理解していない、あるは理解したくない人が多いような気がしました。

 商売の経験がある人には理解されやすいのですが、如何に「良い製品」であっても「商品」として売れないものはごまんとあります。
 エアラインの経営者は飛行機オタクではなく、稼いでなんぼ、黒字をだしてなんぼのプロです。エアラインからみた良い旅客機とは「カネを生む旅客機」であることです。エンジニアのマスターベーションみたいな「良い機体」ではありません。
 多少性能は劣っていても整備性がよく、保守コストが安く、故障が少ない、即ち事故を起こさず、稼働率が高い機体であること。技術的には凡庸な機体でも利益を生むことのほうが重要です。また購入ないしはリースに際しての投資金額が安いこと、つまり値段が安いことも勿論重要です。エアバスが米国機の牙城を崩せたのは、パートナー各国の政府が補助金を出すことにより、値段のダンピングを行ったり、あるいはエアラインに対して非常に有利なファイナンスを政府の保証で行ったりしてきたからです。旅客機はある意味金融商品であります。一定額の資本で機体を手に入れ、その機体を出来るだけフルに稼働させることによって資本の回転率を上げることが経営者の手腕です。ロマンのかけらもなくて残念ですが、それが事実です。

 例えば携帯電話。かつて日本のNTTの技術は極めて高いものがありました。端末として技術が高く、軽量小型、電池の持ちも性能も良い。ところが技術では遙かに低いGSM(電波はやたら強いし、電池の持ちは悪い)の方が世界に普及しました。GSMは国をまたいでも使える、あるいは故障したり、新しい電話を購入しても事実上の本体である内蔵のICカードを入れ替えれば、番号を変更せず、にその場で端末を替えられるというメリットがあったわけです。
 つまりは狭い視野内の「技術力」ではなくマーケティングが勝利を収めたわけです。換言すればNTTには、マーケティング力、あるいは国際的なビジネス感覚が無かったわけです(因みにいまでも我が国は国際電話のかけられない公衆電話が多いのですが先進国はおろか途上国でも希有な存在です。このような状態が「異常」と感じられない感性こそが異常なのですが)。つまり市場で必要とされるのは単に高い技術力を投入した「キカイ」ではなく、「商品」なのです。お金を払ってくださるお客様がいてなんぼというのが商売です。

 またかつてVTRで技術的に優れていたソニーのベータマックスがVHSに敗退したのと同様です。

 無論製造業には高い技術や優秀な工場は必要です。ですが、市場のリサーチから開発コンセプト、プライシング、流通、広告などを含めたマーケティングなしには「商品」は売れません。工場だけでは「製品」「商品」はつくれないのです。つまり開発製造とマーケティングはクルマの両輪です。
 「優れた機体」さえ造れば市場に受け入れられるという主張はかつて攻撃力だけを異常に偏重し、兵器のプラットフォームとしてのバランス、整備性や兵站を無視したかつての日本軍と同じメンタリティです。
 また国産機に愛着を感じるのは人情でしょうが、国産機に過剰な思い入と、根拠無き信頼を抱くのは、ある種過剰な盲目的愛国心であり、非常に危険であります。



http://kiyotani.at.webry.info/200608/article_25.html

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コメント(15件)

内 容 ニックネーム/日時
私は、某電力会社に努めておりますが、まさに同じ問題を抱えております。
カローラでいいところを、ロールスロイスやF1マシンを望んでしまうエンジニア軍団・・・
そりゃ電気料金は高いです!
通りすがり
2006/09/28 02:33
今はボーイングと並ぶエアバスも、長くA300が売れなくて苦労していましたよね。あの苦労があったからこそ、今日の繁栄がある訳で、日本も続けて頑張っていれば、違った形になったでしょう。
成田の近くの住人
2006/09/28 19:07
>>通りすがりさんへ
確かに日本の電気料金は高く高品質ですが、これは、決してF1のような無駄とは考えません。
みなさん。最近何時停電しましたか?
また停電してからどれ位の時間で復旧しましたか?
諸外国では、停電すると1,2時間は停電します。
それに対して日本では、よほどのことが無い限り10分以内で復旧します。
また電気の周波数、電圧の変動はPCや工作機械を扱う工場にとって悪影響を及ぼします。
もちろんお客様に低価格で電力を供給すべきですがその為に電気の品質を下げるような事があってはならないと考えます。
一昨年のサンフランシスコがどんなだったかご存知でしょうに。
電気屋
2006/09/28 21:20
>>通りすがりさんへ
確かに日本の電気料金は高く高品質ですが、これは、決してF1のような無駄とは考えません。
みなさん。最近何時停電しましたか?
また停電してからどれ位の時間で復旧しましたか?
諸外国では、停電すると1,2時間は停電します。
それに対して日本では、よほどのことが無い限り10分以内で復旧します。
また電気の周波数、電圧の変動はPCや工作機械を扱う工場にとって悪影響を及ぼします。
もちろんお客様に低価格で電力を供給すべきですがその為に電気の品質を下げるような事があってはならないと考えます。
一昨年のサンフランシスコがどんなだったかご存知でしょうに。
長文すいません。
電気屋
2006/09/28 21:21
電気屋さんへ、
だから料金が世界一高くて良いと言うのは、供給側の傲慢でしょう。
先日の東京の大停電では、バックアップラインが同じ場所に架設されていたため、同時に切断されるという???の事件でした。
また、サンフランシスコの電力不足事件は、
インセンティブ設定の制度欠陥に由来するものです。
マタンゴ
2006/09/29 00:24
>>マタンゴさん
もちろんだからと言って現状のままでいいというつもりはありません。
 この間の東京や今年初めの新潟の停電は市場開放を受けて電力会社が設備投資を抑制した事が原因と言えます。どちらも十分な設備投資をしておけばここまで大事故になりませんでした。基本的に安全性とコストは反比例するものです。
 ここまで行くと後はもう各々の考え方、主義によってしまうと思います。自分は政治経済は当然自由主義、資本主義であるべきですが、電気、水道、ガスなどライフラインは少々高くても社会主義的にコストよりも安全性を重視すべきだと考えています。
 この間家電量販店に行ったとき店員さんに「安くて良い物を探してるんだけど」といったら「それ私も探してるんです。見つけたら教えてください」と返されました。
 コストと品質、安全、難しいテーマです
電気屋
2006/09/29 22:31
やっぱり悪いのは武器輸出三原則です。日本飛行機製造はC-1のスキームにも関与しました。後部胴体を作り替え、防音を施し、STOLを売りに輸出向けの機体を出していれば、また地方空港のジェット化を滑走路という土木ではなくて、1200m滑走路という「非関税障壁」で護りながら達成していれば。BAe146より良かったでしょ, C-1! C-1のV-2500への転換とか。目くらましの飛鳥がいけなかったか?でもFJR700が無ければV-2500も出来ないし痛し痒し。
http://tail-tale.blogspot.com/2006/09/blog-post_18.html

>市場開放を受けて電力会社が設備投資を抑制した事が
>原因と言えます
市場解放だけではなく、原油が高くて、エネサーブのように事業継続を放棄したり、自家発電をやめて舞い戻るなどの不見識が電力の安定供給を損ねます。
http://www.eneserve.co.jp/ir_11_09.html
pongchang
2006/09/30 07:27
エアバスの成功はセミワイドボディとシリーズすべて同じコックピットにより、製造コストと運行コストの低減というコンセプトを出せたことです。
機体製造の技術自体も必要ですが、このようなコンセプトワークの確立なくしてはエアバスの成功はなかったでしょう。
そういう力が三菱にあるのか、ということです。
キヨタニ
2006/09/30 14:30
MH2000の二の舞になりそうな気が。
いーの
2006/09/30 20:07
 そういや、飛鳥つーのもあったかと……
土門見人
2006/09/30 20:31
有人機開発より、無人機開発の方が日本には向いている。しかし、**重工レベルではコストパフォーマンスに優れた無人機開発は非常に難しい。未来の無人機開発とは、携帯ブロードバンドを介した遠隔越境手動操縦である(現在は自律型ね)そして、国家、企業、の技術力では
これも無理、遠隔手動操縦はアキバ製の趣味の飛行キーデバイスが国防世界を制すると予感す。国防総省を含め、NASA、高等研究所にも
未だこの飛行概念も、技術も無い(と思う)


guest
2006/10/01 05:47
やはりどの業界でも同じ問題を抱えているようですね。
これは私の仕事上で得た印象ですが、日本の伝統的な企業は、莫大な官需と国産は何となく安心と言う消費者のイメージに甘えて、高い技術を市場にマッチさせる能力を育ててこなかったと思います。
FMV-TOWNS
2006/10/01 16:11
FMV-TOWNSさんへ:              遠隔手動操縦型長距離飛行無人機開発は、間違い無く、官や民間企業、学より、趣味のコミニテーの方が飛行技術が格段に進んでいる。そして、官にも、企業も、学にも嫌われているとこが、過去のネットゲーム産業の発展と同じ構図。これしか世界を制することは出来ないのだ。補助金/助成金で政府がコントロールするとと、必ずダメになる。強い産業を育てるには、自己責任で、多産多死でやるより他なし。 こんな分野にも、政府がチョッカイを出し、業界団体を作らせようと目論んでるんだから嫌になる。 きっぱりと拒否してることは言うまでもない。
 
guest
2006/10/02 07:04
納税者は三菱重工の技術者のお遊びのために税金をはらっているわけじゃないんですが・・・
キヨタニ
2006/10/05 00:37
有人機のことはよう解らないものの、未来に普及する高速/高域型の携帯ブロードバンドを介したインターネット遠隔手動操縦型長距離飛行UAVの飛行技術は、政府研究機関、**重工を含めた企業研究より、コストパフォーマンス上から、間違いなく、アキバ趣味技術の方がはるかに進んでいる。補助金/助成金/学術機関の知的関与が無くても、インターネット上で共通の関心を集結し、ボーダレスで研究開発を推進することで、具体的な成果をだせる時代。もう納税者の負担となる補助金/助成金を出して研究開発を推進するのは、無人機開発に関しては
あまり効果は無い。
guest
2006/10/05 06:55

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